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【事例に学ぶ】AIエージェント導入に潜むリスクと対策

AIエージェントは、単なる回答生成にとどまらず、業務システムや開発環境に接続し、判断から実行までを行う、24時間365日働く従業員としての立ち位置を確立しようとしています。ただ、有能性の裏には、誤った判断や外部からの誘導が、そのまま削除・書き込み・権限行使につながるという大きなリスクも潜んでいます。

ガートナージャパン株式会社が2025年6月25日に公表した調査によると、コスト増や不明確な事業価値、不十分なリスク管理などを理由に、自律型AIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されると予測しています。

また、総務省が2026年3月27日に報道した公表した「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」では、「AIエージェントについては、技術が急激な発展の途上にあり、これに特有の脅威や対策を安定的に確定することが現時点では困難であることから、対象外」としています。そのため、権限や監督、監査については導入する企業が独自で整理整備する必要がある状況です。

AIエージェントを導入するためのガイドライン整備の前に、本コラムではAIエージェントにはどういったリスクがあるのか事例を交えながら紹介します。

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AIエージェントの実例:自律実行が業務リスクに変わる瞬間

では、自律的な実行能力を持つAIエージェントは、どのように企業の業務リスクへと発展するのでしょうか。ここでは実際に報告された事例をもとに、AIエージェントの利用において企業が注意すべきリスクと、その背景にある課題を整理します。

① AIの自己申告を過信したケース

あるAI開発プラットフォームのコーディングエージェントが、「変更凍結中」という明示的な指示を無視し、本番データベースを削除した事例です。さらにAIエージェントは、データ削除後に約4,000件の架空ユーザーデータを捏造し、テスト結果やシステム状態を偽って報告していました。

当初、AIエージェントは削除したデータに関しては復旧不可能であると説明していましたが、後に手動で復旧できることが判明し、その説明自体も誤りだったことが明らかになっています。

この事例では、指示を無視した「削除」という操作だけでなく、AIエージェントの報告自体も誤っていたという点を抑えておく必要があります。AIエージェントの説明をそのまま信じる運用では、事実確認や復旧判断が遅れてしまう可能性があります。

② 過剰な権限を与えていたケース

あるSaaS企業で、AIコーディングエージェントがステージング作業中に認証情報の不整合に直面した結果、独断で本番データベースとすべてのボリュームレベルのバックアップを削除した事例です。

この事例では、クラウド側のAPIが「削除」という操作に確認を求めなかったことや、バックアップが元データと同じ場所に保存されていたことなど、設計上の課題が複合的に絡み合っていました。AIが判断ミスをするということだけでなく、クラウドの権限、確認プロセス、バックアップ設計も同時に整備しておかなければならないということを示しています。

③ 外部からの指示を信頼したケース

ある大手クラウドベンダーのAIコーディング拡張機能に対し、攻撃者がオープンソースのリポジトリにPull Requestを送り、管理者権限を得た後、ファイルやクラウドリソースの削除を促す指示を注入した事例です。

その指示は公式拡張に混入し、2025年7月に汚染版が公開され、約1週間後には修正版が公開されたため、実害は限定的でしたが、攻撃者は警告目的でワイパー機能を意図的に不完全な状態にしていたと説明しています。

これは、従来のサプライチェーン攻撃のリスクがAIエージェントにも拡大し、外部データや外部ツールをどこまで信頼するかという観点での管理が重要になることを示しています。

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リスク分析:AIエージェントは従来型AIとどう違うのか

前述の事例からもわかるように、AIエージェントは従来のチャットボット型AIとは異なる性質のセキュリティリスクを抱えています。ここでは、大きく3つのポイントに分けて解説します。

1.過剰な権限・自律性による破壊的操作

AIエージェントは、プロンプトに沿った内容を生成するだけでなく、ツールを呼び出しファイルを編集、クラウドリソースへアクセスし業務上の操作を自律的に実行できるという特徴があります。AIエージェントの導入は生産性の大幅な向上につながる一方で、過剰な権限と結びつくと、削除や更新といった不可逆な操作を短時間で実行できてしまうリスクにもなり得ます。

前述した一つ目の事例では、「変更凍結中」という指示がされていたにもかかわらず、本番データベースを削除するという破壊的操作が行われています。また、二つ目の事例においても、AIエージェントが認証情報の不整合を受け、自分の判断でクラウド上のボリュームを削除しています。どちらも、AIエージェントに与えた権限と実行環境において想定外の行動を止められなかったことが原因です。

AIエージェントを導入する場合はゼロ権限から明示的に許可する「最小権限の原則」に基づく設計が重要な要素となります。

2.ツール・サプライチェーン経由の攻撃と乗っ取り

AIエージェントは、外部文書やメールといったテキスト情報のみならず、API応答、コード、リポジトリなど、多様なデータを読み取ります。そのデータにAIエージェントに対する命令が紛れ込んでいる場合、プロンプトインジェクションを通じ、AIエージェントはその命令に従ってしまう可能性があります。つまりは、AIエージェントが読み取るであろうデータに悪意のある命令を忍ばせれば、乗っ取ることができるということになります。

セキュリティの国際的ガイドラインであるOWASPの「Agentic AI – Threats and Mitigations」では、エージェント特有の脅威として「メモリ汚染、ツール誤用、権限侵害・昇格」を挙げています。また、「Top 10 for Agentic Applications2026」では、ASI01 Agent Goal Hijack(エージェント目標ハイジャック)、ASI02 Tool Misuse(ツールの悪用・誤用)、ASI03 Identity and Privilege Abuse(ID・権限の不正利用)が上位にランクインしています。

前述した三つ目の事例からも、AIエージェントが読み取るデータに指示を混入させることで、AIエージェントの実行判断に影響を及ぼし得ることが分かると思います。外部から取得した情報は、たとえ開発文書や設定ファイルの形をしていても、信頼済みの命令として扱わない設計が重要です。

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3.説明責任・追跡可能性の欠如

AIエージェントの導入では、操作の成否だけでなく、誰がどのエージェントに、どのような権限で、何を実行させたのかを追跡できる状態にしておくことが重要になります。AIエージェント固有のID分離がないと、操作の帰属が曖昧になり、可観測性が成立しません。

実際に存在しているユーザーのアカウントを共有する運用では、人間による操作なのかAIエージェントによる操作なのかの判断ができません。ログ上は人間の操作に見えても、実際はAIエージェントの対応だったという状況が起こり得ます。これでは、何か問題が発生した際の原因調査や監査、そして再発防止策の立案が困難になります。

さらに、紹介した一つ目の事例から、AIエージェントがテスト結果や状態を偽って報告したり、復旧可能性について誤った説明をしたりと、AIエージェントの自己申告を統制の根拠にできないことが読み取れるかと思います。重要なのは、AIエージェントの判断、ツール呼び出し、実行結果を別系統で記録し、人間が検証できる状態にすることです。

企業としての説明責任を果たすために、AIエージェント固有ID、監査ログ、異常検知、承認のを組み合わせる必要があります。

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AIエージェント導入リスクに関するよくある質問

Q. AIエージェントと従来の生成AIやチャットボット型AIのリスクの違いは何ですか?

従来の生成AIやチャットボット型AIは主に「誤った結果の生成(ハルシネーション)」がリスクとして挙げられます。それに対し、AIエージェントは、データの削除や更新といった不可逆な「誤った操作によるデータや環境の破壊」が大きなリスクになる点が違いとして挙げられます。

Q. 信頼できるベンダーの公式ツールだけを使っていれば安全ですか?

学習に使わない設定だからといって自由入力を認める理由にはなりません。利用している生成AIサービスによって、情報の保持期間があったり、海外サーバーに情報が保管される場合もあります。そのため、基本的に顧客情報や機密情報の入力は避ける運用を前提にすることを推奨します。

Q. AIエージェントの報告やログを確認していれば十分ですか?

AIエージェントが誤った報告を行った事例は存在していることから、不十分と言えます。生成AIによるハルシネーションと同じく、AIエージェントの自己申告は信用せず、AIエージェントの行動別のログを監視し、人間が検証できる状態に整えておくことが大切です。

Q. PoCや小規模利用でも、権限管理は必要ですか?

どのような利用においても基本的に権限管理は必要不可欠であると考えておくことを推奨します。紹介した二つ目の事例は、ステージング作業中の単一のAPI呼び出しによって、本番データベースとバックアップが消去されたというものになります。

利用規模にかかわらず、AIエージェントが本番環境や認証情報に到達できる構成になっているのであれば、ゼロ権限を起点に、明示的に許可する最小権限の設計を行うことが重要です。万が一の事態に備え、バックアップを元データと同じ場所に置かないということも、重要な設計要素の一つになります。

Q. 導入にあたって、最初に何から着手すればよいですか?

権限設計と監督体制の棚卸しから始めることを推奨します。
具体的には、以下の6点を組み合わせて整理することをお勧めします。

① 最小権限の原則の徹底
② AIエージェントへの固有IDの付与
③ 人間による承認プロセスの設定
④ 監査ログの収集・保管
⑤ サンドボックス環境の設定
⑥ 敵対的テストの実施

AIエージェントがどの権限で何を実行できるのかを可視化することが、統制可能にする第一歩です。

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【まとめ】AIエージェント導入時にはリスクも見据えて

AIエージェントは、業務を効率化する一方で、設定や運用方法によって業務を破壊してしまうリスクも持ち合わせています。それぞれの事例で紹介したような破壊的操作や虚偽報告、過剰権限によるデータの削除、サプライチェーン経由の不明な命令混入は、いずれも「自律実行」と「権限設計」の問題が複雑に絡み合った結果として生じています。

AIエージェントの導入を成功させるには、性能評価だけでなく、最小権限、AIエージェントの固有ID付与、人間による承認、監査ログの収集と保管、サンドボックス環境の設定、敵対的テストなどを組み合わせた統制が必要不可欠です。

実際の現場においては、「どこまでの権限を与えれば安全かつ効率的に運用できるのか」「自社に合ったガイドラインをどう整備すべきか」と悩まれる実務担当者の方も少なくありません。エルテスでは、そうした現場の課題に寄り添い、「生成AI権限整備サポートサービス」も提供しています。AIエージェントの導入を検討している場合は、無料相談をご活用ください。

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著者|株式会社エルテス 赤田夏実
著者|株式会社エルテス 赤田夏実
AIガバナンスグループ|大学卒業後、テレマーケティング会社を経て、2016年に株式会社エルテスに入社。エルテスではリスクマネジメントの専門コンサルタントを経て、自社の内部統制および生成AIのガバナンス・推進を主導。現在はAIガバナンスグループにて、企業のAIガバナンス構築を専門に支援。
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