
2026年上半期の情報漏洩事例から学ぶ、従来の内部不正対策とUEBAの有効性
近年、ビジネスのデジタル化に伴い、企業が保有する情報資産の価値はますます高まっています。顧客情報や営業秘密、技術情報、取引情報など、企業活動に欠かせないデータがデジタル環境に集約される一方で、多くの企業が外部からのサイバー攻撃対策に継続的な投資を行っています。
しかし、現場のセキュリティ担当者や経営陣が本当に頭を悩ませているのは、外部からの攻撃だけではありません。組織内部の人間による不正行為や、正規の権限を悪用した情報の持ち出しも、企業にとって重大なリスクとなっています。
たとえ強固な信頼関係に基づいて業務を遂行している環境であっても、従業員の意識の変化や退職・異動をきっかけとした情報の持ち出し、長期間にわたる不正行為が発生する可能性はあります。特に、正規の権限を持つ人物が通常業務を装って行う不正行為は、外部からの侵入を前提とした境界防御主体のセキュリティ対策だけでは検知が難しいケースも少なくありません。
このコラムでは、2026年上半期の内部情報漏洩や内部不正の事例を振り返りながら、企業が直面するリスクについて解説します。そのうえで、従来のセキュリティ対策が抱える構造的な限界と、日常の行動パターンから不自然な変化を検知するUEBA(User and Entity Behavior Analytics:ユーザー・エンティティ行動分析)の仕組みについて紹介します。
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2026年上半期に発生した内部情報漏洩事例
現代のセキュリティ対策における現状や課題を正しく把握するためには、実際に組織の内部でどのような事象が発生しているのか、客観的な事実に目を向けることが最初のステップとなります。
内部不正というと、従業員が意図的に大量のデータを一度に持ち出すようなケースを想像しがちですが、実際には正規の業務権限を利用し、日常業務の中に不正行為を紛れ込ませるケースも少なくありません。また、長期間にわたって少しずつ不正を繰り返すことで、発覚を免れようとする事例も存在します。
ここでは、2026年上半期に公表された3つの事案を振り返り、それぞれの背景やリスクについて考察します。
事例① 大手生命保険企業の出向者による情報持ち出し
大手生命保険企業における、出向者による出向先の販売代理店からの内部情報持ち出しの事例です。
当該従業員が出向先の販売代理店36社から、計2,476件の内部情報を無断で持ち出し、取得した情報を所属企業へ不正に共有していました。
2026年5月の公表時点で国内生保業界で最多規模となった情報持ち出しを受け、同社は調査結果を公表するとともに、社長を含む幹部4名の報酬一部自主返納を決定・公表しました。現在は、情報取扱ルールの徹底や管理部門のモニタリング強化を図り、再発防止に取り組んでいます。
事例② 大手アパレル企業の元従業員による情報持ち出し
大手アパレル企業における、退職した元従業員による個人情報の持ち出し事例です。
退職前に社内クラウドサーバーの外部連携機能を利用し、取引先リストなどの個人情報を含む電子データを個人のメールアドレス宛に共有後、退職後に外部端末からダウンロードして持ち出していました。流出した可能性がある情報は広報・PR関連の取引先など約1万人分にのぼり、氏名や勤務先、メールアドレスが含まれていました。
同社は発覚後、警察や個人情報保護委員会へ報告するとともに調査を実施し、現時点でデータの第三者流出などの二次被害は確認されていません。現在はアクセス制限の強化や監視体制の見直しを行い、再発防止に努めるとしています。
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事例③ 大手エンタメ関連企業の委託先元社員による情報持ち出し
音楽フェスなどを運営する大手エンタメ関連企業における、業務委託先の元従業員による顧客情報の持ち出し事例です。
業務委託先の元従業員が在職中、業務上でアクセス権限を持っていたデータベースから、同社が運営するイベント参加者の個人情報を不正にダウンロードして社外へ持ち出していました。漏洩した情報はイベント参加者など約1,000名分にのぼり、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、購入履歴などが含まれていたとされています。
持ち出された情報が他のイベント事業へ不正利用された疑いから事態が発覚し、同社は警察への被害届提出や個人情報保護委員会への報告を行いました。委託先企業とともに事実関係の徹底解明を進めるとともに、アクセス権限の厳格化や外部委託先の管理・監視体制の強化を図り、再発防止に取り組むとしています。
情報漏洩対策におけるUEBAの役割
紹介した3つの事例が示しているように、内部の従業員や委託先、出向先といった信頼された関係者が、正規のアカウントやアクセス権限を悪用して不正行為を行う場合、外部からの侵入のみを想定したセキュリティシステムでは防ぎきれません。実効性のある対策を講じるためには、ユーザーやシステムの行動パターンを分析するUEBAの考え方が重要です。
UEBA(User and Entity Behavior Analytics:ユーザー・エンティティ行動分析)とは、AIや機械学習を活用してユーザーや端末の日常的な行動パターンを学習・分析する技術です。平常時の動作を基準に「普段と異なる不自然な動き」をリアルタイムで検知・評価するため、巧妙な内部不正や情報持ち出しの早期把握を可能にします。
ここでは、従来の課題とUEBAによる解決アプローチを3つの視点で説明します。
① 正規権限を持つ人の不自然な操作を検知する
在職者や退職予定者など、組織の内部にいる人物には、業務に必要な正規のアクセス権限があらかじめ付与されています。そのため、従業員がその権限を利用してデータを閲覧・ダウンロードしても、システム上は「正常な業務」として処理されてしまいます。
アクセス権限の有無だけを基準とする従来の仕組みでは、こうした正規の権限を悪用した不正な持ち出しを完全に判別することは困難でした。
UEBAでは、誰がデータにアクセスできるかという「権限の有無」だけでなく、「その人が普段どのように行動しているか」を動的な判断基準とします。従業員が普段どのようなシステムやフォルダにアクセスしているかを継続的に分析することで、普段はアクセスしない他部署の機密フォルダを閲覧するなど、通常の行動から逸脱した不自然な操作を早期に検知できます。
▶関連記事:振る舞い検知とは?退職者のデータ持ち出しを防ぐ仕組みと効果を解説
② 静的なルールに頼らず「いつもと違う」変化を捉える
SIEMや標準的なログ管理などの従来のセキュリティ管理では、「一定時間内に特定件数以上のダウンロードがあった場合」といった固定の閾値を設定して監視する仕組みが一般的でした。このようなルールベースの監視では、少量ずつデータを持ち出すなど、設定された条件を回避する行動を見逃す可能性があります。
一方で、検知ルールを厳しく設定しすぎると、正当な業務操作に対しても大量のアラートが発生する恐れがあり、管理者の確認負担が増大して運用が形骸化する課題を抱えていました。
UEBAでは、AIや機械学習を活用してユーザーや端末ごとの「普段の正常な行動パターン」を動的に自動学習します。固定化されたルールに頼るのではなく、個々の日常動作と比較して「いつもと違う」変化や異常の度合いをスコアリングするため、監視の手をすり抜ける小分けの持ち出しや不審な挙動も、過度な誤アラートを抑えつつ高精度に特定できます。
③ 単一のイベント単位ではなく「時系列に沿った一連の操作」として判定する
従来のログ監視においては、サーバーや各種アプリケーション、端末ごとに記録されるログを「単発のイベント」として個別に確認・評価する手法が多く用いられていました。この方法では、複数のシステムや時間軸を跨いで実行される一連の操作の背景まで総合的に把握することは容易ではありません。個々の操作だけを見ると通常の業務アクセスと判断される場合でも、それらを組み合わせた一連の不正行為の全体像を把握することは困難です。
UEBAでは、システムへのログインから社内ファイルの検索・閲覧、クラウドサービスへのデータ送信、さらには退職手続きに至るまで、複数のシステムを横断する操作履歴をユーザーや端末単位で関連付け、一貫して追跡します。
単独の操作情報として処理するのではなく、時系列に沿った行動の変化として相関分析およびスコアリングを行うことで、日常業務に紛れた不自然な振る舞いを検知し、情報持ち出しなどの内部不正を早期に把握できます。
▶関連記事:内部情報漏洩対策に求められる仕組みと運用|ツール導入だけでは終わらない運用のポイント
内部不正対策ならエルテス
従来のルールベース監視が抱える大量の誤アラートによる運用の破綻や、正規権限を使った巧妙な持ち出しの見落としという課題に対し、現実的な解決策を提供するのがエルテスの「内部脅威検知サービス(Internal Risk Intelligence)」です。
本サービスは単に機械的なUEBAツールを提供するだけでなく、社内に存在するPC操作、ファイルアクセス、メール送信などの複数のログを網羅的に収集・蓄積し、独自の動的リスクシナリオを用いて前日分のログを全件突き合わせます。

最大の特徴は、システムによる自動スコアリングだけに頼るのではなく、「翌営業日中」にセキュリティの専門アナリストが人の目でログの推移や業務の文脈を丁寧に精査・分析する高度なマネージド体制にあります。
UEBAの機械学習とプロのアナリストによる二重の確認を行うことで、一般的なツール単体運用で発生しがちな過剰な誤検知を極限まで排除し、「真にリスクのある不自然な振る舞い」だけを正確に特定し、対処すべき重要リスクとして企業へ報告します。自社で専門人材を確保したりログ監視に追われたりすることなく、運用の大部分をマネージドサービスとしてプロに委任できるため、現場の運用担当者を疲弊させることなく、最も強固なガバナンスを最小限の負荷で維持できる体制を構築できます。
導入事例
① 株式会社GRCS様
リスクマネジメント・セキュリティ事業を展開する株式会社GRCS様では、高い水準の情報セキュリティ管理が求められる中、PCの操作ログは取得していたものの、常時、全従業員のログを網羅的に監視・分析する社内リソースの不足に課題を感じていました。また、百数十名規模の組織において「社員同士が監視し合う」体制は、分析側の精神的な負担が非常に大きいという心理的抵抗もありました。
そこで新規上場の準備を契機にサービスを導入したところ、前日のログを丸ごとアウトソース形式で精査・可視化できるようになり、社内リソースを圧迫することなくログの常時分析体制を確立できました。
導入後は、内部脅威の兆候把握だけでなく、USB接続などのリスクにつながる可能性がある行動の確認や、従業員へのセキュリティ意識向上にも活用でき、IPO準備やISMS運用においても、具体的な情報セキュリティ対策として説明できる体制構築につながっています。
② CHCPグループ様
地域の医療・ヘルスケア機関をつなぐプラットフォーム事業を展開するCHCPグループ様では、事業を支える情報システムの適切な運用とITガバナンスの強化を重要な課題としていました。患者の個人情報など機微な情報を取り扱う環境において、外部からのサイバー攻撃対策を進める一方、これまで十分に着手できていなかった内部脅威対策の強化を目的にサービスを導入しました。
約3か月のPoCを通じてログ分析の精度を高め、本番運用へ移行し、現在は専門アナリストによる継続的なログ分析や運用支援を通じて、内部脅威の早期把握やシャドーITの可視化など、グループ全体の情報セキュリティ強化に取り組んでいます。
まとめ
2026年上半期に明らかになった情報漏洩や内部不正の事例を振り返ると、内部の正規権限を持つ人物による不正や、長期間にわたって通常業務に紛れ込む不正行為が、企業にとって大きなリスクとなっていることが分かります。
外部からの攻撃を防ぐ境界型のセキュリティ対策は、現在も重要な役割を果たしています。しかし、正規のアカウントや権限を悪用した内部不正に対しては、権限の有無だけを確認する静的な対策では十分に対応できない場合があります。そこで重要になるのが、従業員やユーザーの日常の行動パターンを分析し、普段とは異なる変化を検知するUEBAの考え方です。
一つの操作だけを見れば正常に見える行動であっても、日々のログを継続的に蓄積し、複数の行動を組み合わせて分析することで、不正につながる可能性のある予兆を捉えられる場合があります。一過性のアラートに現場が翻弄されるのではなく、蓄積されたログをもとに普段の行動からの逸脱を「線」として分析することが、内部不正対策における現実的なアプローチとなります。
内部不正対策は、エルテスへ




