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退任後も続いた営業情報の持ち出し―法的な証拠保全の申し立てがきっかけで発覚

退任や異動に伴う営業情報の持ち出しは、特定の業界や役職者だけに起こる問題ではなく、重要情報を扱うあらゆる企業で発生し得るリスクです。特に、在職中に付与されていた権限や業務上の立場が、そのまま情報の保持や利用につながる場合、事象が発覚するまで状況を把握できないケースもあります。

このコラムでは、営業情報が長期間にわたって持ち出されていた事例をもとに、現場担当者や管理者が見直すべき情報管理のポイントについて解説します。

事例の概要

事例の背景

ある企業において、経営に関与していた人物が、商品原価など事業運営に関わる営業秘密を外部に持ち出し、競合関係にある事業者へ提供する事例が発生しました。これらの情報は、競合企業にとって自社との取引条件や事業運営を検討するうえで有用な情報となり得るもので、競合先では商品原価の比較表の作成などに利用されていたとされています。

この事例では、不正競争防止法違反として刑事責任が問われ、関与した人物に有罪判決が言い渡されました。営業秘密の不正な持ち出しは、企業の競争上の優位性を損なうだけでなく、刑事責任につながる可能性もあります。営業秘密を扱う企業にとって、アクセス権限や情報の持ち出しを適切に管理し、内部からの情報流出を防ぐ体制を整えることが重要です。

発覚の遅れと管理の盲点

本事例で発覚のきっかけとなったのは、被害を受けた企業側が法的な証拠保全の手続きを取ったことでした。ここから標準的な社内システムだけでは、退任後も情報が保持され続けている状況を検知することは困難であることがわかります。結果として、発覚までには1〜2年ほどの期間を要しており、その間に重要情報が繰り返し利用されていた可能性が高いと言えます。

ここで注目すべきは、情報の持ち出し方法自体には特別な技術を要しておらず、日常的な業務の延長線上で行われていたとみられる点です。持ち出しは在職中の日常業務の中から始まっており、その段階で不自然な兆候を検知できていれば、退任後に情報が手元に残り続けるという状況自体が生じなかった可能性があります。

社内の内部監査だけで、通常業務に紛れ込んだこうした事案を発見することは容易ではありません。退任者による情報の保有状況は、在職者に比べて把握しにくく、見落としやすい領域です。

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実務現場における具体的な流出対策

ルールの形骸化とデバイス制御

こうした事例を踏まえ、重要情報や営業秘密を日常業務で頻繁に取り扱う現場担当者の視点として、まず自組織において確認すべきなのは、情報の外部持ち出しルールが「就業規則などの文面上だけで禁止されている状態」なのか、それとも「実際の情報システムやデバイス制御によって物理的に制限されている状態」なのかという明確な違いです。

どれほど厳しいセキュリティ規程が定められていたとしても、個人の業務端末に記録媒体を接続すれば自由にデータを書き込めてしまう状態であれば、実質的には持ち出しを制限していないのと同様であり、情報の流出を防ぐことはできません。

業務の実情とシャドーITのリスク

一方で、実際のビジネス現場においては、取引先との交渉や社外の関係者との連携のために、重要データを外部に持ち出したり引き渡したりする業務プロセスが避けられないという実情もあります。

これを考慮せず、セキュリティの強化だけを理由としてすべての持ち出し経路を一律に遮断してしまえば、現場の業務が滞るだけでなく、従業員が企業の管理から外れた「シャドーIT」を利用するリスクを高めます。シャドーITは検知が困難であり、かえって情報流出の潜在的なリスクとなります。

ログの記録と現場が求めるべき運用

そのため、現場から求めるべき建設的な要望は、単に利便性を理由に例外を認めるよう求めるものではありません。誰が、いつ、どのような目的で、何のデータをどの経路で持ち出したのかがシステム上に確実なログとして記録され、後から説明責任を果たせる状態を作ることを前提として、業務に必要な持ち出しを許可する仕組みを求めるべきです。

具体的には、外部媒体を使用せざるを得ない業務要件をあらかじめ定義したうえで申請フローを確立し、その申請情報と実際の書き出しログを事後的にいつでも突き合わせて検証できる運用体制を構築することが求められます。

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現場担当者への示唆

退任や異動によって役割が変わる際には、業務上知り得た情報の扱いについて、あらためて確認する機会を設けることが大切です。特に、価格や原価など経営に直結する情報は、退任後も影響が長く残る可能性があることを意識する必要があります。

情報を持ち出す側に悪意がある場合はもちろんですが、悪意なく情報を保持し続けてしまうケースもあり得ます。そのため、退任時の返却・削除の手続きは形式的に終わらせるのではなく、実際に完了しているかを確認できる運用にすることが求められます。

また、自分自身が退任・異動する際だけでなく、周囲の従業員が退任する際にも、情報の受け渡しが適切に行われているか気を配ることが望まれます。周囲の変化や違和感に気づいた際に、声をあげやすい環境づくりも重要です。さらに、会社から貸与されているPC端末等における過去の外部接続履歴を、上長と共同で確認する手順を退職時の正式なチェックリストに組み込んでおくことが実務的な対策となります。

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管理者への示唆

この事例には、見落としやすい急所が二つあります。一つは、退任した瞬間に監視対象から外れるという運用上の切れ目です。もう一つは、その手前にある平常時、つまり在職中の何気ない日々の中で持ち出しが積み上がっていたという点です。1〜2年という発覚までの期間は、退任後の空白であると同時に、その前から続いていた日常が誰にも見られていなかった年月でもあります。

内部にいる人間は、どこにどの情報があり、どのような手続きであれば通常業務として処理されるのかまで把握しています。だからこそ、通常の業務動作と見分けがつかない形で、平常時から少しずつ持ち出しを重ねることが可能になります。

そのため、退任・異動の前後だけを重点的に確認する運用では、平常時に積み上がる持ち出しを取りこぼしてしまいます。監視の土台は、平常時のログを継続的に確認できる状態に置き、退任前後の重点確認は、その上に重ねる二段目の対策として位置づけることが実務的です。

退任者・異動者の情報管理は、情報システム部門だけで抱え込むものではありません。人事部門や現場の管理職が連携して取り組むことで、はじめて実効性のある運用になります。重要ファイルへのアクセスログ、印刷ログ、外部記憶媒体への書き出しログ、社外アドレス宛の送信ログなどを平常時から蓄積しておくことで、「いつから、どのような変化が起きたのか」を遡って確認できるようになります。

ただし、退任時期には引き継ぎや業務整理によって大量のファイル参照や印刷が発生することもあります。一方で、平常時の持ち出しは1回あたりの量が小さいケースも多く、単純なアクセス量の増減だけでは異常を判別することは困難です。

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IRIによる平常時の行動変化の把握

ここで「内部脅威検知サービス(Internal Risk Intelligence)」のような仕組みが活用されます。「権限を持つ人物による普段と異なる時間帯・頻度でのアクセス」「通常とは異なる外部送信先への反復的な送信」「非定型の媒体への書き出し」といった複数のシグナルを、その人物の平常時のふるまいと照らし合わせることで、通常業務と異常行動を区別できます。



定期的な棚卸しや退任時チェックリストの整備を前提としたうえで、問い直したいのは「退任前の数週間を見られているか」ではなく、「平常時から見え続けているか」という点です。日々の積み上がりを捉えられていれば、退任間際の不自然な動きも、その延長線上の変化としてリアルタイムに把握できます。

1〜2年が経過してから外部の手続きによって知らされるのではなく、情報が競合の手元で利用される前に対応できるかどうかは、平常時から可視化できているかという差にかかっています。

まとめ

営業情報の持ち出しは、退任・異動といった節目をきっかけに発生することがあり、その発覚に外部からの法的手続きが関わるケースも少なくありません。特に、退任者による情報の保有・利用というリスクは、退任時点の手続きだけでは捉えきれず、在職中の平常時から蓄積される記録をもとに管理していくことが重要です。

自社の情報管理体制が、退任という一時点だけではなく、在職中の平常時の日々までカバーできているか、この機会に見直してみることをおすすめします。

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著者|株式会社エルテス 松本明子
著者|株式会社エルテス 松本明子
IT総合ソリューション事業者で、プログラマ、システムエンジニア、プロジェクトマネージャを経て、セキュリティエンジニアとして実績を積む。業務改善の重要性と有用性を知り、独学で学んだPython・AI技術を駆使した業務改善に取り組むため2026年エルテス入社。AIの業務活用やIRI事業における技術対応を担当。
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