
病院キャンセル料の「誤解拡散」や不正販売に学ぶ。SNS上のフェイク情報・トラブルに対する企業公式の正しい初期対応
インターネットとSNSが社会のインフラとして完全に定着した現代において、企業の広報・リスクマネジメント担当者が直面する課題はかつてないほど複雑化しています。
数年前であれば、「炎上」のきっかけは、企業側の不祥事や従業員の不適切な発言などが中心でした。しかしながら、近年ではそうした内部要因にとどまらず、外部の第三者による「フェイク情報(誤解)の拡散」や、自社製品・サービスを悪用した「不正なプロモーション」が、企業ブランドを根底から揺るがす事態へと発展するケースが日常的に見受けられます。
情報発信のハードルが下がり、誰もが情報発信者になり得る今、事実とは異なる情報であっても、キャッチーな見出しや感情を煽る表現が伴えば、瞬く間に数万人、数百万人へと拡散されてしまいます。
このコラムでは、「病院キャンセル料の誤解拡散」と「医薬品の不正販売に対する行政の対応」という2つの事例から、SNS上のフェイク情報やトラブルに対して企業公式が取るべき正しい初期対応について解説します。
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【事例1】病院キャンセル料をめぐる誤解の拡散と厚労省の迅速な対応
2026年5月末から6月初旬にかけて、SNS上で「病院の予約キャンセル料」に関する新たなルールの導入が報道された際、SNS上で情報の一部が不正確に切り取られて爆発的に拡散した事例がありました。
本来であれば特定の条件下でのみ発生するはずの料金が、「今後、すべての病院において、無料の予約であってもキャンセル料が取られるようになる」という誤解へとすり替わり、利用者の間で大きな混乱が生じてしまいかねない状況でした。
この事態に対し、厚生労働省は迅速かつ明確なアクションを起こしました。公式な見解として「キャンセル料が発生するのは、あらかじめ予約料をとっている場合のみであり、無料の予約ではキャンセル料は発生しない」と明言し、国民の不安と誤解の払拭を図ったのです。
もし厚労省がこの誤解を「一部のネット上の噂に過ぎない」と軽視し、放置していればどうなっていたでしょうか。全国の医療機関の窓口で、患者とスタッフの間でキャンセル料を巡るトラブルが頻発し、現場は深刻な混乱に陥っていたことは想像に難くありません。
これは、情報の発信元(この場合は行政)が自らファクト(事実)をいち早く提示し、誤った情報の連鎖を断ち切った、危機管理広報の好例と言えます。
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【事例2】マンジャロ不正販売炎上と東京都の異例な「直接リプライ」
もう一つの注目すべき事例は、糖尿病治療薬「マンジャロ」の不正販売を巡るSNS上での騒動です。本来は糖尿病治療のために用いられるべき処方薬が「ダイエット薬」としてSNS上で安易に宣伝され、違法な販売や転売が横行している現状は社会的な問題となっています。
悪質なプロモーションを放置することは、製品の不適切利用にとどまりません。不適切なサービスや事業に出資・関与していた関係者に対してもSNS上で批判の矛先が向き、著名な実業家が「出資者は今後も問題を起こし続ける」と厳しく指摘するなど、二次的な炎上へと発展する事態にもなります。
この深刻な問題に対し、東京都は極めて現代的かつ直接的な手法で対抗しました。SNS上で不正な販売や問題のあるプロモーションを行っているアカウントに対し、東京都の職員が投稿を確認した上で、公式アカウントから直接「リプライ(返信)」の形で警告を送ったのです。この対応はSNS上で大きな反響を呼び、東京都側も「今後も粛々と続けていく」との毅然とした姿勢を示しています。
悪質な不正行為やルール違反に対して、行政や企業側が「見て見ぬふり」をせず、プラットフォーム上で直接介入するという、新たなリスクコミュニケーションの形を示唆する事例と言えます。
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フェイク情報・トラブルに対する企業公式の正しい初期対応
2つの事例から、企業の広報・リスクマネジメント担当者が学ぶべき教訓は何でしょうか。自社のブランドを守るためには、次に挙げる3つのポイントを平時から組織内に浸透させておく必要があります。
①SNSの常時モニタリングによる火種の早期検知
フェイク情報や自社製品の不適切な利用は、企業が感知しないところで静かに始まり、ある日突然、爆発的に拡散します。一度広く拡散してしまった情報を完全に訂正し、人々の記憶から完全に消し去ることは不可能に近いです。
したがって、デジタルリスク対策の最前線は「常時モニタリング」にあります。自社名や製品名、サービス名だけでなく、関連する業界のキーワードや競合他社の動向も含め、24時間365日体制で監視し、「誤解を生む投稿」や「不正利用の兆候」をボヤの段階で早期に発見するシステムを構築することが不可欠です。
②状況に応じた静観と、迅速かつ正確なファクト発信の使い分け
自社に関するネガティブな情報が拡散し始めた際、一律に様子見したり、逆にすべての声に過剰反応したりすることは避けるべきです。
例えば、個人の主観に基づく批判や感情的な意見に対しては、あえて反応しない「静観」が有効な場合があります。企業が過度に反論すると、かえって注目を集めてしまい、二次炎上につながるリスクがあるからです。
しかし、事実と異なる情報や根拠のないデマが拡散し、企業やブランドの信用に影響を与える可能性がある場合は、迅速な対応が求められます。
SNS空間における沈黙は「事実上の肯定」と受け取られることもあるため、公式Webサイトや公式SNSを通じて、場合によっては「ファクト情報の発信」を行うことで、デマの拡散を食い止め、顧客やファン、取引先などのステークホルダーの理解を得やすくなります。
③プラットフォーム特性に応じた能動的なアクションの検討とルール化
東京都の「マンジャロ」不正販売に対する直接のリプライは、悪質なトラブルに対するカウンターパンチとなりました。企業においても、自社のブランドを著しく毀損するような悪質なフェイク情報や、規約違反のプロモーションに対しては、公式アカウントから直接注意喚起や警告を行うという選択肢を持っておくべきです。
とはいえ、この手法は一歩間違えると「企業対個人」の泥沼の口論に発展し、企業側が「高圧的だ」と新たな批判を浴びるリスクも十分に考えられるからです。
たとえば、どのような基準(法的侵害、生命・健康への危険など)を満たした場合に直接アクションを起こすのか、その際のトーン&マナーはどうするのか、法務部門を含めた社内ガイドラインを平時から綿密に策定しておくことが求められます。
表現上の注意点として、色使いや動物のモチーフ、ハンドサインなども、国によっては否定的な意味を持ってしまうことがある点にも留意が必要です。
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まとめ
現代のデジタルリスクマネジメントにおいて重要なのは、ネット上の批判を恐れて一律に謝罪やスルーを選択するのではなく、リスクの性質を見極める「状況判断力」です。法的・倫理的な問題のない主観的な意見や感情的な批判に対しては、あえて反応しない「静観」が有効な場合があります。一方で、誤情報やデマに対しては「迅速かつ正確なファクト発信」が求められます。
こうした判断をその場の感覚で行うのではなく、平時から監視体制や対応フローを整備し、炎上リスクを早期に把握できる環境を構築しておくことが重要です。
エルテスの「Webリスクモニタリング」では、SNSや掲示板、口コミサイトなどを継続的に監視し、企業に影響を与えるリスク情報を早期に検知します。さらに、リスクの内容に応じた対応方針の検討や危機管理体制の構築まで支援しています。
ネット上の風評被害や炎上リスクへの対策を検討中の方は、ぜひお気軽にエルテスへご相談ください。





