
【中編】論理より「視覚」が制する有事の広報|トイレットペーパー騒動から学ぶ風評被害対策
オイルショックの教訓:論理的説明が火に油を注いだ広報の失敗

1973年の第一次オイルショック時、全国的なトイレットペーパー買い占め騒動が起きました。発端は、あるスーパーで特売品に並んだ客の姿を、メディアが「品切れを理由に値上げして販売された」「主婦たちが買いあさった」とセンセーショナルに報じたことでした。この報道からわずか3日で、全国の小売店からトイレットペーパーが姿を消す事態となりました。
実際には特売品が売り切れて通常価格の商品を出しただけであり、値上げの事実はありませんでした。そもそも、日用品であるトイレットペーパーの需要が突然急増することは考えにくく、製紙メーカーも需要に合わせた十分な供給を行っていました。
しかし、消費者の不安が連鎖し、「1人が1個買うところを2個買う」といった行動が重なるだけで、あっという間に市場から品物が消えてしまったのです。
このパニックは国政をも揺るがしました。当時の国会会議録や発言記録を見ると、騒動から2ヵ月経っても事態は収束しないどころか、政府自身も混乱の原因や実態を十分に把握できていなかったことがうかがえます。
田渕哲也議員は1973年12月5日の第72回参議院本会議で、トイレットペーパー騒動の原因について次のように述べています。
トイレットペーパー騒動の原因は、メーカーの卸値三〇%値上げを小売り店が拒否したのが発端といわれておりますが…
また田中角栄首相も同年12月7日の第72回衆議院予算委員会で、次のように答弁しています。
静岡で小さなトイレットペーパー製造業者に十四日ばかりの営業停止を行なった。(中略)それが三日間に東京へ飛び、全国に飛び、特に団地がわっという間にトイレットペーパーになぜいったのかというので、いま調査をいたしております。
事態を重く見た当局は、該当地域へ数万ケースの急送をメーカーや卸売、小売業者に要請し、メーカーは前年比16%増(約13万8千トン、東京ドーム約1.5杯分に相当)という異例の大増産に踏み切りました。あわせて、メーカーはメディアの取材に対し「原材料はある」「工場はフル稼働している」と回答し、当時の通産省も新聞の政府広報で「買いだめはやめましょう」と呼びかけました。
にもかかわらず、憶測が憶測を呼び、パニックが完全に収束するまでには翌年まで時間を要しました。企業や政府が「論理的」な事実や活字でいくら説明しても、有事の大衆心理には効果を発揮しなかったという、危機管理広報における非常に重要な歴史的教訓です。
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コロナ禍における進化:視覚に訴えかける「見せる広報」の成功

一方で、このオイルショックに匹敵する危機的状況が、2020年のコロナ禍でも発生しました。「マスクの製造に紙が回り、トイレットペーパーがなくなる」というデマをきっかけに、買い占めの兆候が全国各地で見られ始めたのです。
しかし、政府や経済産業省は第一次オイルショックの教訓を活かし、官民連携による万全の策を講じました。当時の国会会議録にも、政府の迅速な対応が記録されています。
まず2020年3月4日の第201回国会参議院予算委員会では、安倍晋三内閣総理大臣が次のように答弁しています。
マスクについては、消毒用アルコール、そしてまたトイレットペーパーと併せて、メーカーの生産状況、海外からの輸入状況及び政府の対応について、厚労省、経産省のホームページやSNSを通じて情報の発信を行っているところでございますが、引き続き、事業者と連携しつつ、消費者の安心につながる積極的かつ分かりやすい情報発信を行うとともに…
また同日の同委員会では、加藤勝信厚生労働大臣(※国会表記では国務大臣)も流通状況について次のように述べています。
メーカーが増産されていることは間違いないと思いますけれども、卸売業者におけるその在庫はどうなっているのか、あるいは物流が滞っているために末端まで来ないのではないか(中略)我々の方も、そうした事業所等、現場に出向いていって、しっかり状況を把握し…
経産省は大手製紙メーカーや卸売・小売業者と連携し、デマ発生から数日後には職員を製紙工場や巨大倉庫に派遣しました。そして、天井まで積み上がったトイレットペーパーの「写真」や「動画」を撮影し、公式SNSやマスコミを通じて即座に発信しました。
これは、「国やメーカーの言葉を鵜呑みにさせる」のではなく、「実際にこれだけ在庫があるのを自分の目で確かめてもらう」ことで、テキストによる説明を超えた「視覚的」な安心感を提供する戦略的な情報発信でした。
また、経産省は小売業界の団体とも協議し、「バックヤードの在庫をあえて客の見える通路に山積みする」「明日もこれだけ入荷しますと売り場に掲示する」といった、店舗側での視覚的なアピールも要請しました。
BtoB企業に求められる風評被害対策

有事においては、「今、社会がどの程度のパニック状態にあるのか」「論理と視覚、どちらの情報発信が有効なのか」を見極める力が求められます。
これはBtoC企業に限った話ではありません。前編で触れたナフサを扱うようなBtoB企業であっても同様です。有事に際して、文字だけの定型的なリリースを発表するだけではなく、自社の素材がどう最終製品に繋がるかを図解で示したり、現場の稼働状況を動画で公開したりするなど、視覚的なアプローチを取り入れ、不安を抱えるステークホルダーに確かな安心感を与えることも工夫の方法としては一考の価値があります。
中東情勢をはじめ、先行きの見えない事象が続く現代において、社会の全体傾向を正しく把握し、適切な広報対応に結び付ける重要性はますます高まっています。
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有事の風評被害対策・SNSモニタリングならエルテス
適切なタイミングで、消費者の心理に寄り添った効果的な広報(視覚的コミュニケーションなど)を行うためには、SNS等における「目に見えないサイレント・マジョリティの不安やデマの兆候」をいち早く察知する必要があります。

エルテスは、インターネット上の論調を継続的に監視する「Webリスクモニタリング」により、デマやパニックの火種を早期検知します。さらに、専門のコンサルタントが有事の際の最適なコミュニケーション戦略に伴走し、貴社のブランド防衛を支援します。
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まとめ
有事における大衆心理は、平時では到底起こりえない挙動をみせる事があります。予期せぬパニックやデマによって自社製品の供給網やブランドが毀損されるのを防ぐためには、常日頃からの論調モニタリングと、大衆心理を深く理解した柔軟な広報戦略の構築が欠かせません。
有事の風評被害対応や危機管理体制を強化したいとお考えの方は、ぜひお気軽にエルテスへご相談ください。







