
ログ分析がセキュリティ対策に不可欠な理由と重要性を解説
システム運用における「ログ」は、単なる活動記録ではありません。ユーザーのログイン履歴、ファイル操作、ネットワーク通信といったシステム内のあらゆる活動を記録したログデータを分析することは、重大なインシデントに発展する前の「異常な兆候」を捉えるための不可欠な手段です。
このコラムでは、一般的なセキュリティガイドラインが求めるログ管理の要件から、ログ分析の基本的な役割、具体的なメリットと対策について解説します。
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なぜログ分析がセキュリティに不可欠なのか
国際的な「NIST SP800」や国内の各種安全管理基準などのセキュリティガイドラインは、組織に対してログ管理に関する具体的な要件を提示しています。具体例として、自動車産業サイバーセキュリティガイドラインでは、ログ分析を行う際の達成すべき要件として「業界を代表する企業や、技術的先進企業が目指すべき最上位レベル」に到達するために、以下のような条件を満たす必要があると示されています。
No. | 達成条件 | 達成基準 |
81 | 内部情報漏洩対策として、複数ログを組み合わせて異常行動を自動検知できる仕組みを導入している | 【規則】 |
122 | 認証ログのモニタリングを実施している | 【規則】 |
144 | 重要なシステムについて、アプリケーション操作ログを取得している | 【規則】 |
出典:日本自動車工業会(JAMA)・日本自動車部品部品工業会(JAPIA), 「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」
このように、ログ分析はルール違反や不正行為の抑止力となるだけでなく、インシデント発生時の「証拠」として法的対応や原因究明に必須であり、企業がセキュリティ対策の責任を果たすために不可欠な要素です。
ログ分析とは
ログ分析とは、PCやサーバー、ネットワーク機器などのITシステムが時系列で自動的に生成し格納した膨大なログデータを、単に集めるだけでなく、検索、調査、そして誰にでも分かりやすい形で可視化する一連のプロセスを指します。
ログ監視については、こちらのコラムで監視ツールの選び方まで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
ログ分析の目的
ログ分析は、単に過去の出来事を記録するだけでなく、システムの安定稼働とセキュリティの強化という、企業の根幹に関わる領域に不可欠な役割を果たします。
具体的には、主に以下の3つの目的で活用されています。
システム全体の健康状態を把握する
Webサイトや社内システムを構成する、分散した多数のサーバーやプログラムからのログを一元的に集約し、パフォーマンスの状況などをリアルタイムで可視化することで、システム全体の健康状態を常時監視できます。これにより、システムの健全な状態を常時監視し、インシデントに発展する前の問題兆候を迅速に発見することが可能です。
障害発生時に根本原因を迅速に特定し解決する
システムに問題が起きた際には、ログ分析を用いることで、原因がどのサーバーやプログラムにあるのかを速やかに突き止め、解決までの時間を大幅に短縮できます。視覚化ツールを活用すれば、大量のイベントから必要な情報を効率的に探し出し、アプリケーションやITインフラ全体で発生した出来事の関連性を見つけ出すことで、根本的な原因を迅速に診断し、稼働率を改善できます。
セキュリティインテリジェンスとイベント管理(SIEM)への活用
ログ分析は、SIEMにおいても非常に重要な役割を果たします。アプリケーション、ネットワーク、OSなど、IT環境全体で発生するあらゆるイベントを一元的に収集・分析することで、ネットワーク内での悪意ある行動や不審な活動を特定できます。データは取り込まれるとすぐにインデックスが作成されるため、複数のソースから得たデータを即座に分析し、脅威を迅速に発見して、問題の未然防止につながります。
ログ分析で得られる3つのメリット
ここでは、なぜログ分析がビジネスに不可欠なのか、その主なメリットを3つの視点から詳しくご紹介します。
情報漏えいを含む内部不正を防ぐ高い抑止効果がある
ログ分析を導入し、情報漏えいの原因となり得る不審な操作やヒューマンエラーを迅速に検知できる体制を社内全体に周知することで、従業員の行動に対する心理的抑止力が働きます。ログは「誰が、いつ、どこで、何をしたか」という行動の軌跡を隠蔽できない形で記録するため、透明性の確保が内部不正対策に有効です。
さらに、高性能なログ分析ツールに搭載されている不正アクセスの検知・ブロック機能を併用することで、システム的な側面からも情報漏えいのリスクを事前に大きく低下させることが可能となり、人的・技術的な両面からセキュリティレベルを引き上げることができます。
外部からの攻撃を早期に検知・対処できる
サイバー攻撃は年々巧妙化し、完全に侵入を防ぎ切ることは極めて困難になりつつあります。この状況において、ログ分析ツールは、外部からの不正アクセスやマルウェア攻撃などの外部脅威が社内システムに侵入しようとする予兆を事前に察知する重要な機能を持っています。具体的には、通常ではありえない時間帯や地域からのログイン試行、短時間での大量データアクセスなど、怪しい振る舞いをリアルタイムで捉えます。
これにより、万が一高度な攻撃によってブロックしきれずに侵入されてしまった場合でも、異常発生をいち早く検知できるため、被害が拡大する前に迅速な対策を講じ、その影響を最小限に食い止めることが可能です。
システム障害を未然に防げる
サーバーへのアクセスやネットワークトラフィックの急増などは、システム障害を引き起こす原因になりかねません。ログ分析ツールを活用することで、システム障害の原因となり得る異常なイベントを事前に把握し、大きなトラブルに発展する前に迅速な対処が可能です。
ログ分析の課題
前述でわかるように、ログ分析は非常に有効な手段ですが、全てを社内だけで行うのは難しい場合もあります。
例えば、以下のような課題が挙げられます。
大量のログを扱う手間と負担
まず、セキュリティシステムやネットワーク機器、PCから日々生成される膨大なログを、担当者が一つひとつ手作業で読み解き、不審な兆候を見つけ出す作業は、莫大な工数と時間を要します。特に大規模な企業であればあるほど、データ量は増え専任の担当者であっても日々の業務に追われ、異常の兆候を見落とすリスクが高まってしまいます。
専門知識が必要な分析作業
機器やベンダーによってログの形式が異なるため、全体像を捉えるには個別の分析作業が必要です。さらに、分析結果からリスクレベルを正しく判断することも求められ、判断を誤れば、状況把握が遅れることによるインシデント発生時の初動対応に遅れが生じるリスクがあります。
分析後のレポート作成と報告の工数
そして、ログ分析の最も重要な目的である「次に取るべき行動の特定」のためには、解析結果を単に羅列するだけでなく、経営層や関係部門に理解できるように、セキュリティリスクや業務への影響度を分かりやすくまとめた報告レポートを作成する必要があります。
このレポート作成と情報共有のプロセスに多大な工数を取られてしまうことも、社内での継続的なログ分析を困難にする大きな課題の一つです。結果として、異常は検知できても、本質的なリスク低減や対策改善に繋がらないという状況に陥りかねません。
内部脅威検知サービス(Internal Risk Intelligence)のログ分析の仕組み
エルテスの内部脅威検知サービス(Internal Risk Intelligence)は、お客様が普段の業務で取得している各種ログを活用し、「システム分析」と「専門アナリストによる再分析」を組み合わせることで、精度の高いリスク検知を実現しています。分析工程は二段階で構成されます。
第一段階:AIによるシステム分析
AIを駆使したシステム分析を実施します。過去の不正事例から導き出された1万パターン以上のリスクシナリオとの照合を行い、特定の危険行動を検出します。また、従業員の「普段の行動」をAIが学習し、機密情報への深夜アクセスや利用頻度の低いファイルへのアクセスなど、日常から逸脱した異常な挙動を自動的に特定します。
第二段階:専門アナリストによる再評価と精査
システム分析の結果を、専門アナリストが再評価します。システムだけでは避けられない誤検知やノイズを、アナリストの知見と経験に基づいてふるいにかけ、お客様が対応すべき必要性の高いリスク情報だけを厳選して報告します。専門アナリストが介入することで、ログ分析に関する課題を解決します。
また、豊富な運用実績に基づくリスクパターンのノウハウを活かした高精度な分析結果を、Webポータルで簡単に確認できるため、運用の工数を大幅に削減できます。また、SIEM導入・自社運用よりも低コストで、高度な内部不正対策を実現します。
まとめ
このコラムでは、ログ分析がビジネスにおいていかに不可欠なセキュリティ強化策であるかを解説しました。
サイバーセキュリティガイドラインへの準拠は、単に規制や要件を満たすだけでなく、組織全体のセキュリティレベルを体系的に向上させるために極めて重要です。特にログ分析は、外部や内部脅威から組織を守るための中心的な役割を担っています。
ログ分析をすることで、セキュリティインシデント発生後の事後対応に限らず、インシデントの予兆を事前に捉え、問題を未然に防止できるセキュリティ体制も構築できます。ログ分析によるセキュリティ強化をご検討の際は、ぜひ一度エルテスへお気軽にご相談ください。
ログ分析ソリューションのご相談は、エルテスへ