カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?関わる条例・法律や事例を解説!
昨今、話題に上がることが増えたカスタマーハラスメント。略して、「カスハラ」とも呼ばれています。
カスタマーハラスメントは、従業員に多大なストレスを与えるため、休職や離職の原因にもなりかねません。また、企業としても、カスタマーハラスメントへの対応に労力と時間を費やすのはマイナス要素となります。
本記事では、カスタマーハラスメントに関係する条例や法律などを事例も交えて解説します。
目次[非表示]
- 1.カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?
- 1.1.カスハラの定義
- 1.2.カスハラが広まった背景は?
- 1.3.カスハラの具体例とは?
- 1.4.カスハラが企業に及ぼす影響は?
- 2.カスハラとなる基準は?
- 3.カスハラにまつわる条例や法律は?
- 3.1.企業が責任を負うもの
- 3.2.カスハラを行った者(顧客)が責任を負うもの
- 4.カスハラ対策として企業がとるべき対応は?
- 4.1.カスハラ対応についてのマニュアルを作成する
- 4.2.カスハラ対応の研修を実施する
- 4.3.従業員がカスハラについて相談できる場を設ける
- 4.4.カスハラの証拠が残るようにする
- 5.カスハラが生じた際の対応の手順を確認!
- 5.1.連絡手順に従い、責任者に情報を共有する
- 5.2.顧客の意見を聞き、記録に残す
- 5.3.現場での対応か、持ち帰っての対応かを判断する
- 5.4.会社の対応方針を決定し、顧客に連絡する
- 5.5.カスハラを受けたスタッフをサポートする
- 5.6.カスハラ対応ガイドラインを見直す
- 6.SNSで拡散されるカスタマーハラスメントにも対策を
- 7.まとめ
- 8.出典
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?
カスタマーハラスメントの定義や広まった背景、企業に及ぼす影響などをご紹介します。
カスハラの定義
カスタマーハラスメントとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの」であると、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」において定義されています。
現代、様々なハラスメントがある中で、顧客が企業に対して理不尽な言動・クレームを行うことがカスタマーハラスメントとして認識されるようになりました。
引用:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」p.7
カスハラが広まった背景は?
カスタマーハラスメントの拡大はSNSの普及も関係しています。
昨今、顧客が企業を簡単に批評できるSNSによって顧客の発言力が高まり、企業が屈してしまうパターンが多くなっています。また、ハラスメントを問題視する傾向が強くなったことも挙げられます。
以前からカスタマーハラスメントにあたる行為は見られましたが、様々なハラスメントが注目されるようになったことから、新たな形として取り上げられるようになったと考えられます。
カスハラの具体例とは?
顧客から従業員に対して行われるカスタマーハラスメントには、次のようなものがあります。
- 暴行や傷害といった身体的攻撃
- 暴言や脅迫といった精神的攻撃
- 過度な要求
- 継続的かつ執拗な言動
- 拘束的な行動
カスハラが企業に及ぼす影響は?
カスタマーハラスメントによって、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。
企業がカスタマーハラスメントを放置した場合、従業員のモチベーションが下がるとともに、企業の生産性も低下する可能性があります。
また、精神的ダメージを受けて休職・離職する従業員が増加することも考えられるでしょう。
カスタマーハラスメントに抗議できない企業としてレッテルを貼られた場合、企業のイメージが落ち、業績が悪化する恐れもあります。
カスハラとなる基準は?
企業は、カスタマーハラスメントと正当なクレームの違いを判別する必要があります。2つの基準をもとに区別しましょう。
- 顧客の要望に妥当性があるかどうか
- 顧客の要望を実現するための手段・態様が社会通念上適当かどうか
顧客の要望に妥当性があるかどうか
顧客からクレームがあった際は、事の経緯を確認した上で、「自社に不手際がないか」「顧客の要望に妥当性があるか」を考えましょう。
自社に不手際があり、顧客の発言に妥当性があった場合、正当なクレームとして扱う必要があります。一方で、自社に落ち度がないにも関わらず、顧客が言いがかりをつけている場合は毅然とした対応をすべきです。
顧客の要望を実現するための手段・態様が社会通念上適当かどうか
顧客の要望に妥当性があったとしても、それを実現するための手段や態様が社会通念上適当でない場合、カスタマーハラスメントに値する可能性があります。
「カスハラとみなされるもの」の具体例
- 従業員を怒鳴りつけたり、暴言・罵声を浴びせる行為
- 従業員への土下座の要求
- 電話や店舗での長時間にわたる説教
- ミスに対するお詫びとして、無料で商品・サービスを提供するよう執拗に要求する行為
など
「カスハラとみなされないもの」の具体例
- 「接客態度が悪い」「待ち時間が長い」といった不満による指摘
- 「商品の使用方法がわからない」「購入した商品が届かない」「違う商品が届いた」などの問い合わせに近い内容
- 「料理に異物が混入していたから取り替えてほしい」といった正当な要求 など
カスハラにまつわる条例や法律は?
カスタマーハラスメントに関わる条例・法律をいくつかご紹介します。
- 企業が責任を負うもの
- カスハラを行った者(顧客)が責任を負うもの
企業が責任を負うもの
カスタマーハラスメントにまつわる条例・法律の中で、企業が責任を負うものをご紹介します。
労働契約法
企業は、従業員が生命・身体などの安全を確保しながら働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。
企業は安全配慮義務に基づいて、顧客によるカスタマーハラスメントから従業員を守る必要があります。対応を怠り、従業員が身体的・精神的ダメージを受けた場合、従業員から企業に対して損害賠償を請求されることもあります。
労働施策総合推進法
企業には、社内でのパワーハラスメントを防ぐために、雇用を管理する上で必要となる措置を取る義務があります。厚生労働省はこれに基づいて、企業が対策すべきパワーハラスメントを中心とした指針を公表しています。
その中にはカスタマーハラスメントに言及する部分もあり、企業は次のことに取り組むべきと示されています。
- 相談を受け、適正に対応可能な体制を整備する
事前に相談先を決め、労働者に共有するとともに、相談を受けた側が適切に対応できる状態を整えます。 - 被害者に配慮した取り組みを実施する
被害者の精神的不調への相談対応を行うほか、加害者に従業員一人で対応させないようにします。
カスハラを行った者(顧客)が責任を負うもの
カスタマーハラスメントにまつわる条例・法律の中で、カスハラを行った者(顧客)が責任を負うものをご紹介します。
刑法
カスタマーハラスメントの対応次第では、次のような犯罪が成り立つ場合があります。
- 傷害罪(刑法204条)、暴行罪(同208条)
従業員などに暴力を振るった場合 - 脅迫罪(刑法222条)、強要罪(同223条)
従業員や企業に対して脅迫・強要した場合 - 名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(同231条)
従業員や企業の名誉を傷つけるような発言があった場合 - 威力業務妨害罪(刑法234条)
暴力や脅迫などにより、企業への業務妨害となった場合
民法
カスタマーハラスメントによって従業員が精神的ダメージを受けたり、企業の事業に支障が生じたりすると、顧客は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
故意あるいは過失により、「他人の権利」「法律上保護される利益」を侵害した場合、これが原因で発生した損害を賠償することがあります。
カスハラ対策として企業がとるべき対応は?
企業はカスタマーハラスメント対策としてどのような対応をとるべきなのか、具体的にご紹介します。
- カスハラ対応についてのマニュアルを作成する
- カスハラ対応の研修を実施する
- 従業員がカスハラについて相談できる場を設ける
- カスハラの証拠が残るようにする
カスハラ対応についてのマニュアルを作成する
カスタマーハラスメントに対応する際の方法について、マニュアルを作成しましょう。顧客との会話の流れをあらかじめ決めた「トークスクリプト」を用意しておくのもおすすめです。
作成したマニュアルを全従業員に共有することで、迷うことなく対応できるほか、精神的ダメージの低減にもつながります。
カスハラ対応の研修を実施する
すべての従業員がカスタマーハラスメントへ対応できるよう、定期的に研修を実施しましょう。カスタマーハラスメントに関する正確な知識を身につけてもらうことはもちろん、過去の事例や対処法を共有しておけば、同様の事象が発生した際も適切に対応できます。
従業員がカスハラについて相談できる場を設ける
カスタマーハラスメントの相談窓口を設置するなど、対応を行った従業員をケアできる環境を整備しましょう。社内で相談を受ける担当者を明確にしておき、悪質なクレームに対して従業員一人で解決しようとさせない体制を整えることが大切です。
カスハラの証拠が残るようにする
カスタマーハラスメントに対抗するには、証拠を残すことも重要です。
顧客と直接やりとりをする際は、音声を録音しておきましょう。暴言や悪質なクレームの証拠を取っておけば、警察へ通報する時にも役立ちます。
カスハラが生じた際の対応の手順を確認!
カスタマーハラスメントが発生した時の対応手順をご紹介します。
- 連絡手順に従い、責任者に情報を共有する
- 顧客の意見を聞き、記録に残す
- 現場での対応か、持ち帰っての対応かを判断する
- 会社の対応方針を決定し、顧客に連絡する
- カスハラを受けたスタッフをサポートする
- カスハラ対応ガイドラインを見直す
連絡手順に従い、責任者に情報を共有する
カスタマーハラスメントを行う顧客に対しては、従業員一人に対応させないようにしましょう。連絡手順に従って、対応方法を正しく判断できる責任者を呼び、情報を共有することが大切です。
顧客の意見を聞き、記録に残す
カスタマーハラスメントを行う顧客は、自分の都合に合わせて前言とは異なる発言をすることも多くあります。まずは意見を聞き、記録として残すことで、その時々の主張に振り回されることなく対応できます。
現場での対応か、持ち帰っての対応かを判断する
カスタマーハラスメントの内容によって、現場で対応するか、持ち帰って対応するかをマニュアルに沿って判断する必要があります。判断が難しかったり、大きな問題に発展しそうな場合は、念のため持ち帰りを選択しましょう。
会社の対応方針を決定し、顧客に連絡する
持ち帰って対応する場合は、会社の対応方針を決めてから顧客に連絡します。
顧客から揚げ足をとられないよう文章の見直しはしっかり行いましょう。顧問弁護士から助言を受けることもおすすめです。
カスハラを受けたスタッフをサポートする
カスタマーハラスメントを受けた従業員は、大きな精神的ダメージを負ってしまう可能性があります。企業はできる限り従業員の意欲を保ち、休職や離職といった選択に至らないよう、時には臨床心理士や産業医などと連携しながら、適切なサポートを施しましょう。
カスハラ対応ガイドラインを見直す
カスタマーハラスメントにおける過去の事例は、今後の対応にも役立ちます。
対応ガイドラインを見直し、改善できる箇所があれば反映することで、より強固な体制を築けます。
SNSで拡散されるカスタマーハラスメントにも対策を
SNSの普及によってお客様対応を行う従業員の顔や名前をSNSで拡散する、あるいは拡散することを材料に脅される事例が増えており、カスタマーハラスメントから従業員を守るためには、SNSの対策も重要になっています。
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まとめ
カスタマーハラスメントに関する正しい知識を身につけていないと、対応方法を誤って重大な問題に発展する可能性もあるため、企業として対策を講じることは必須と言えるでしょう。
また、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントと異なり、カスタマーハラスメントは顧客という立場があるので、対策が立てにくい側面があります。そのため、企業全体として対策していくことが大切になります。
出典
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
-
e-Govポータル「e-Gov法令検索」
https://www.e-gov.go.jp