
「事後対応」では手遅れに|予兆を捉える内部不正対策の仕組み作りについて解説
内部不正対策という言葉に対して、多くの企業担当者は「問題が起きたときに対応するもの」「不正が発覚した後に調査するための仕組み」という印象を持っているかもしれません。しかし、実際に発生している内部不正事案を振り返ると、内部不正が発覚された時点ですでに被害が拡大しており、企業として取り得る選択肢が限られているケースが少なくありません。
こうした背景から、近年では「事後対応」ではなく、内部不正に至る前段階の変化、いわゆる「予兆」を捉えることを前提とした内部不正対策の重要性が強く認識されるようになっています。
このコラムでは、従来型のアプローチでは対策しきれない、「予兆検知」という新しい視点から内部不正を未然に防ぐための仕組み作りについて紹介します。
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被害が表面化するまでに時間がかかる内部不正の特徴

内部不正が企業にとって重要なリスクと位置づけられる理由の一つは、内部不正の多くが業務上正規のアクセス権限を付与された従業員や関係者によって行われる点にあります。外部からのサイバー攻撃であれば、不審な通信や侵入の痕跡など、通常とは異なる兆候が比較的把握しやすい一方で、内部不正の場合は業務遂行のために許可された操作の範囲内で実行されるケースが多く、システム上の挙動だけを見ても、通常業務との違いを判別しにくいという特性があります。
さらに近年では、悪意のある第三者が他人のIDやパスワードを不正に利用し、コンピューターやシステム内部へアクセスする事例も確認されていますが、この場合も操作自体は正規の権限によるものとしてログに記録されるため、結果として内部不正と同様に発見が遅れる可能性があります。
こうした背景から内部不正対策においては、単に「どのアカウントで操作が行われたか」を把握するだけでは不十分であり、その権限のもとで「どのような行動が、どのようなプロセスで行われているのか」を継続的に把握するという視点が、これまで以上に重要になっています。
ログはあるが「見ていない」「見きれない」という現実
多くの企業では、内部不正対策の一環として、業務システムや社用端末、クラウドサービスなどに関する各種ログを取得・保管していますが、リスク把握や不正の兆候検知に十分活用されているとは言い切れない状況があります。実際にも、ログは保存されているものの、具体的な確認や分析はインシデント発生後に限定されることが多く、平常時の運用においては、内部不正対策として積極的に活用されていないケースが少なくありません。
従来のログ管理やルールベースの監視手法だけでは対応しきれない場面が増えている中で、内部不正に至る行動の変化を前提とした分析や運用へと視点を広げていくことが、今後の内部不正対策において重要なポイントとなっています。
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内部不正に至る行動のプロセス

内部不正は、一見すると突発的な行動のように思われがちですが、実際には準備段階を含んだ一連のプロセスを経て実行されることがほとんどです。このプロセスを理解することは、不正の兆候を見つけ出す上で非常に重要になります。
不正が起きるメカニズムを説明する概念として「不正のトライアングル」がよく知られ、「動機」「機会」「正当化」の3つの要素が揃ったときに、不正行為のリスクが高まるという考え方です。例えば、経済的な困窮や不満といった「動機」、職務権限の悪用やシステムの脆弱性といった「機会」、そして「これくらいなら許されるだろう」「自社への貢献の割に評価が低いから仕方ない」といった自分を納得させる「正当化」の心理が重なることで、不正行為へとエスカレートしていきます。
「不正のトライアングル」の要素が揃い、不正が実行されるまでの過程で、従業員のIT利用状況には何らかの変化、つまり「予兆」が現れる可能性が高いです。内部不正の「予兆」をいち早く捉えることができれば、内部不正が実行される前に防止することができます。
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内部不正予兆の具体例

では、内部不正の「予兆」とは、具体的にどのような行動を指すのでしょうか。例えば、以下のような行動が挙げられます。
・通常の業務時間外である深夜や休日におけるシステムへのアクセスが頻発している。
・担当業務や役職の範囲から見て、本来は取り扱う必要のない機密情報や重要データへのアクセスが見られる。
・退職予定者や異動を控えた従業員による社内データへのアクセスが急増している。
・短期間に大量のファイルをダウンロードし、印刷を繰り返されている。
・普段使用していない外部記憶媒体へのデータコピーが発生している。
これらはいずれも、単体で直ちに不正と断定できるものではありませんが、平常時の利用状況と比較した際に「いつもと異なる行動」として把握できる点が重要になります。
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ルールベース検知の限界と振る舞い検知(UEBA)の活用

内部不正の兆候を捉えるための代表的な方法として「ルールベース検知」と「振る舞い検知(UEBA)」が挙げられます。
「ルールベース検知」と呼ばれる方法は、事前に定義した条件に合致した場合にアラートを発するものです。例えば「深夜の特定システムアクセスは禁止」「特定フォルダからの大量ファイルダウンロードはアラート」といったルールを設定し、違反した場合に脅威として通知するという仕組みです。
ルールベース検知は条件が明確であり、設定自体も比較的に容易ですが、事前に想定していない行為や未知の脅威、巧妙な内部不正手法に対しては対応が難しいという制約があります。理由として、あらかじめ設定された条件を満たさない行為については検知が発生しないためであり、内部不正のように業務上の正規権限のまま進行するリスク行動を見逃してしまう可能性があることにつながります。
こうしたルールベース検知の制約に対応するため、近年は「振る舞い検知(UEBA)」が注目されています。UEBA(User and Entity Behavior Analytics)は、従来の静的なルールに依存するのではなく、組織内のユーザーやエンティティの通常行動パターンを機械学習と行動分析によって学習させ、ベースラインから逸脱した「異常な振る舞い」を検出する仕組みです。行動パターンのベースラインは、ログデータやアクセス履歴、システム利用状況などを長期間監視することで構築され、逸脱した行為があるとリスクとして評価されます。
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「監視する対策」から「従業員を守る対策」へ

内部不正対策と聞くと、「従業員を監視する」というネガティブなイメージを抱き、社内の信頼関係に悪影響を及ぼすという懸念があるかもしれません。しかし、本来は全従業員を根拠のない疑いから守り、誰もが安心して働ける安全な業務環境を提供することにあります。UEBA(User and Entity Behavior Analytics)などを活用した振る舞い検知は、特定の個人を常時監視するのではなく、あくまで「平常時の行動パターンからの逸脱」という客観的な事象に着目するアプローチです。これにより、個人のプライバシーに配慮しつつ、組織全体のセキュリティレベルを高めることが可能になります。
また、UEBAを活用した振る舞い検知の仕組みは、悪意のない従業員が誤って機密情報にアクセスしたり、セキュリティポリシーに反する操作をした際に、その行動を早期に検知し、問題が大きくなる前に対策する役割も果たします。さらには、万が一内部不正の疑いがかかった従業員がいたとしても、行動の客観的な証拠となるログデータを提供できます。
このように、内部不正対策は単に不正行為を取り締まるだけでなく、従業員一人ひとりが安心して業務に集中できる環境を整え、結果として組織全体の健全性を高めるための重要な施策と捉えることができます。
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内部不正対策を経営視点で捉え直す

内部不正対策は多くの場合、IT部門の責任範囲と捉えられがちですが、その影響は企業の存続そのものに関わる経営課題です。情報漏洩やシステムの改ざんは、顧客からの信頼失墜、ブランド価値の毀損、株価の下落といった直接的な経済的損失だけでなく、法的責任や行政指導、さらには事業継続の危機にまで発展する可能性があります。そのため、内部不正対策は「単なるITコスト」ではなく、「企業の事業継続性とブランド価値を守るための投資」と捉えるべきです。
予兆検知の仕組みを構築し、リスクを未然に防ぐ体制を整えることは、インシデント発生時の損失を最小限に抑えるだけでなく、企業が社会的な説明責任を果たす上で極めて重要です。
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内部不正対策ならエルテスの内部脅威検知サービス

これまでお伝えしてきた、予兆を捉える内部不正対策の「仕組み」を自社で構築することは、多くの企業にとって大きな負担となります。
エルテスの「内部脅威検知サービス(Internal Risk Intelligence)」 は、内部不正や情報漏洩につながるリスク行動を早期に捉え、迅速な対応につなげるためのマネージドサービスです。不正なデータアクセスや情報の持ち出し、不審なメール送信といった兆候を検知した段階でアラートを発し、被害が顕在化する前の初動対応を支援します。
内部脅威検知サービスは主に次のような特徴があります:
・既存のログをそのまま活用でき、追加ソフトウェアの導入が不要
・ログの収集体制が未整備な企業に対しては、構築支援から対応可能
・業務を逸脱した操作や、機密情報への不自然なアクセスを特定
これにより、従来のルールベースのログ監視では把握しきれなかった内部不正につながる行動を捉え、重大なインシデントに発展する前段階での対策を可能にする体制を構築できます。
まとめ
このコラムでは、内部不正対策において、インシデント発生後の「事後対応」から、予兆を捉える「予防検知」へと発想を転換することの重要性をお伝えしました。内部不正は、表面化するまでに時間がかかり、発覚した際には甚大な被害をもたらすため、内部不正の予兆をいち早く捉えるかが重要となります。
自社のセキュリティ体制を根本から見直し、より実効性の高い内部不正対策を検討されている場合は、ぜひお気軽にエルテスへお問合せください。
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