catch-img

【対談記事】専門家が語る|カスハラと誹謗中傷に企業はどう向き合うべきか

SNSの普及により、企業と顧客の関係性は大きく変化しています。ユーザーの声が可視化されるようになったことで、企業にとって顧客の意見をより迅速に把握できるというメリットが生まれた一方、ネット炎上や誹謗中傷といった問題も深刻化し、企業は新たなリスクに直面しています。

これまで、多くの企業は顧客対応の延長として過度な要求や攻撃的な言動に耐え続ける姿勢をとることが少なくありませんでした。しかし近年、SNS炎上対策の重要性が高まる中で、企業が自社のレピュテーションと従業員の安全を守るために、従来とは異なる対応を選択する事例が現れ始めています。

このコラムでは、SNSリスクマネジメントの観点から、カスタマーハラスメント(カスハラ)や誹謗中傷への対応事例を取り上げ、企業がどのように向き合うべきか、具体的な対策のポイントを解説します。

  • 事例1

カスハラによるバス運行休止と従業員保護の対応

2026年2月、公営バスで発生したカスハラによる運行休止の事例は、SNSを中心に大きな話題となりました。
停留所で、自身の乗車直前で閉まった扉に対して激高した利用者が運転手に怒声を浴びせたことが発端でした。運転手は「運転できる精神状態ではない」と判断し、営業所の許可を得て該当車両の運行を見合わせ、乗客は後続車両へ案内されました。交通局は対応について「乗務員が精神的に不安定な状況では安全運行に支障が出るため」と説明し、精神状態を理由とした運休は同交通局にとって初めての事例と報じられました。
SNS上では、「実車運行できないと判断した運転士と許可を出した運行管理者に拍手」「安全第一で素晴らしい対応」「カスハラ対策の英断」など、乗務員を守り、乗客の安全を最優先にした対応を称賛する声が多数見られました。

  • 事例2

大手企業による誹謗中傷まとめサイト閉鎖への法的措置

2026年3月、ある大手ゲーム会社は、自社の人気オンラインゲームのスタッフの名誉毀損にあたる記事を長年にわたり掲載していたまとめサイトの管理者に対して、発信者情報開示請求などの法的措置を実施しました。
その後、プロバイダなどを通じて身元が判明し、サイト管理者との間で、謝罪文の掲載、サイトの閉鎖、解決金の支払いを含む和解が成立したことが同月に発表されました。

対談|カスハラ・SNS誹謗中傷に企業はどう向き合うべきか

ここから、長きにわたり企業のデジタルリスク対策のサポートに携わってきたエルテスのコンサルタント2名による対談で、企業としてのリスクマネジメントや具体的なSNS対応のポイントを掘り下げます。

株式会社エルテス SR事業本部
SR CS部 第2CSグループ
佐々木 有菜

2016年8月よりエルテスに入社、幅広い業界のクライアントを対応。特にモニタリングサービスについて対応実績が厚く、延べ400件~500件程度のコンサルティング対応と多数のセミナー登壇経験あり。炎上時の論調把握とインシデント発生時の対応アドバイスなどサポート経験も豊富。

株式会社エルテス SR事業本部
SR CS部 第2CSグループ
佐々木 有菜

2016年8月よりエルテスに入社、幅広い業界のクライアントを対応。特にモニタリングサービスについて対応実績が厚く、延べ400件~500件程度のコンサルティング対応と多数のセミナー登壇経験あり。炎上時の論調把握とインシデント発生時の対応アドバイスなどサポート経験も豊富。

株式会社エルテス 事業戦略本部
事業戦略部 サービス企画グループ マネジャー
武藤 淳平

大学卒業後、大手メーカーにて勤務。その後、2023年1月にエルテス入社。コンサルタントとして、200社以上の企業に対してリスクマネジメントや危機管理を支援。現在は、金融業界を中心にデジタルリスクの低減に向けたサポートを行う。

株式会社エルテス 事業戦略本部
事業戦略部 サービス企画グループ マネジャー
武藤 淳平

大学卒業後、大手メーカーにて勤務。その後、2023年1月にエルテス入社。コンサルタントとして、200社以上の企業に対してリスクマネジメントや危機管理を支援。現在は、金融業界を中心にデジタルリスクの低減に向けたサポートを行う。

バス運行停止の事例から見るカスハラ問題

佐々木:一つ目のカスハラの事例は、企業側がサービス提供を停止するという具体的な行動に踏み切った点が非常に印象的でした。
運転手が精神的に業務を遂行できない状態になった際に、「無理をしてでも運行を続ける」のではなく、「従業員の保護」と「安全第一」を優先した判断だったと言えます。カスハラへの対応として、企業がここまで明確にスタンスを示した事例は多くなく、かなり踏み込んだ対応だったと感じています。

武藤:問題の背景には、運輸業界の深刻な人手不足もあると思います。企業として従業員を守る姿勢を示さなければ、働き手が定着しないという危機感があるのではないでしょうか。
以前の社会感覚であれば、「なぜバスを止めたのか」と企業側が批判される可能性もあったと思いますが、今回はSNSでも「交通第一、安全第一の考えでバスを止めるのは当然」「従業員を守る判断は評価できる」といった意見が多く見られました。
カスハラに対して企業が毅然と対応することを支持する声が広がっている点は、社会の価値観の変化を感じます。

佐々木:もし精神的に動揺した状態で運転を続けていれば、人身事故など重大な被害につながっていた可能性もあります。そうしたリスクを未然に防いだという観点からも、今回の判断は評価されるべきものだと思います。
ただし、企業が最初から強硬な手段を取ると、利用者の反発を招く可能性もあります。重要なのは、現場が通常対応を尽くした上で、それでもカスハラが継続し、改善が見られない場合に「最後の手段」として対応を取ることです。
今回の事例は、そうしたプロセスを踏んだうえでの判断だったからこそ、社会的にも理解され、リスク対応として有効に機能したのだと思います。

▶ SNSのクレーム対応で炎上する企業のパターンと対策を【無料】ダウンロード

ネット上の誹謗中傷とまとめサイト問題

佐々木:2つ目の事例、大手まとめサイトが企業の直接的な介入によって突然消滅したというのも、衝撃的な事例でした。特定のゲームプロデューサーなど個人に対する誹謗中傷が長年にわたり記事としてまとめられ、その間、注意喚起や警告を行っても改善されなかったため、最終手段として対応に踏み切ったと見られます。企業がここまで踏み切った背景には、法的な枠組みに基づく管理責任の明確化があったことも大きいと考えられます。

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(旧プロバイダ責任制限法)」では、ネット上の情報流通に関わる事業者の責任や、権利侵害を受けた被害者の救済手段について定められています。
同法の第五条では、権利侵害を受けたとする人が投稿者などの発信者情報の開示を請求できることが規定されています。

第五条(発信者情報の開示請求)
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。
以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。


さらに第三条の解釈で、情報の流通によって他人の権利が侵害された場合の責任について次のように定められています。

第三条(損害賠償責任の制限)
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、
これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。

つまり、個々のコメントを書いたのは匿名ユーザーであっても、まとめサイトの管理人が悪意ある誹謗中傷を拾い上げ、アクセス数を稼ぐために記事として編集していた場合、「知らなかった」という言い分は通用しにくく、情報流通を管理する立場としての責任が問われる構造になっています。

武藤:これまでは「匿名だから追えない」という感覚がネット上には強くありましたが、企業が本格的に動けば状況は大きく変わるということが示されたわけですね。実際、今回削除されたサイトと同規模の別のまとめサイトも、自発的に更新を停止したという話もありました。業界全体に強いインパクトを与え、転換点になった出来事だったと言えるかもしれません。

▶ ネットの風評被害が企業の採用活動に与える影響と対策を【無料】ダウンロード

SNS時代に企業が直面する新しいリスク

武藤:SNSやネット上の誹謗中傷は、もはや企業にとって軽視できないリスクになっています。企業批判を超えて、誹謗中傷や犯罪に近い表現まで飛び交い、「正義なら何を言ってもいい」というような空気が生まれているように感じます。

佐々木:特にX(旧Twitter)ではインプレッションが可視化されるようになってから、批判的な投稿ほど拡散されやすい構造が強まっています。その背景にはユーザーの心理も影響しています。例えば、店舗に被害をもたらす悪質な迷惑客がいた場合、ユーザーができることはSNSで批判的な意見を書くことくらいしかありません。自分たちでは直接打撃を与えられないという無力感があるからこそ、企業という「大きな力」が個人に対して損害賠償などの責任を問う場面を見ることで、強い「爽快感」を得てしまうユーザーも少なくありません。

武藤:逆に言えば、企業が毅然とした姿勢で法的措置を取り続けることで、「匿名でも特定され、責任を問われる可能性がある」という認識が社会に広がります。そうした事例が積み重なることで、結果的にはネット上の過激な言論が抑制され、SNSの空気も徐々に変わっていく可能性があると思います。

▶ SNS投稿が引き起こすレピュテーションリスクと対策を【無料】ダウンロード

企業がSNS対策で準備すべきポイント

① 対応ガイドラインを明確にする

佐々木:対策として、企業はまずどこまで対応するのか、現場レベルでは何回注意するのかといった運用ルールを具体的に設計しておく必要があります。明文化されたガイドラインがあるだけでは不十分で、実際に行動として運用できるかどうかが重要です。

② 対応の記録を残す

佐々木:その際に極めて重要になるのが、対応の記録(ログ)をすべて残しておくことです。仮にユーザーがSNSで企業対応を公表した場合でも、企業側が「複数回の注意や段階的な対応を行ったうえでの判断である」と説明できれば、世論を味方につけやすくなり、炎上を回避できる可能性が高まります。

③ 対応の指針を社外にも公開する

武藤:企業の内部ルールとしてガイドラインを整備することはもちろんですが、外部に公開することも重要になってきますね。

佐々木:まさにそこが大きなポイントです。カスハラ防止の指針を社内で作っていても、外部に公開していない企業は意外と多いのですが、それでは実効性が弱いと言わざるを得ません。ホームページや店舗など顧客から見える場所に掲載しておくことで抑止力になりますし、トラブルが起きたときにも「この指針に基づいた対応です」と明確な根拠を示すことができます。
指針を公開することで多少の威圧感を与える可能性はありますが、公開していないことで従業員を守れないリスクの方がはるかに大きいです。

④ SNSモニタリング体制の整備する

武藤:もう一つ最近感じるのは、SNS上で企業に対する期待値がかなり高くなっていることです。ユーザーの中には、企業が当然のようにSNSを常時モニタリングしていると考えている人も多いですよね。

佐々木:特に知名度の高いブランドほど、その傾向は強くなります。本来であればカスタマーセンターに問い合わせるべき内容でも、企業名だけを書いてSNSに投稿し「見つけて対応してくれるだろう」と期待するケースが増えています。
もし企業が日常的なモニタリングを行っていなければ、投稿は見過ごされてしまい、「大企業なのにカスタマーの声に目を向けていない、無視された」という形でネガティブな印象が拡散してしまう可能性があります。

武藤:ただ、ネガティブな意見を見つけたとしても、すべてに反応すればいいわけではないですよね。

佐々木:炎上対応で最も重要なのは、内容だけでなく、発信している人が「本当に自社のターゲット顧客なのか」を見極めることです。例えば、乳幼児向けの商品を扱う企業がSNSで批判を受けている場合でも、投稿者を分析してみると子育てとは関係のないユーザーが炎上に便乗して批判しているだけというケースもあります。
そうした第三者の声に過剰に反応して謝罪してしまうと、本来の顧客層から「なぜ理不尽な声に屈するのか」と反発を招き、二次炎上につながる可能性があります。

武藤:一般のユーザーから見た企業の規模と、実際のSNS運用体制は必ずしも一致しません。例えば、BtoBの製造業などで企業規模が非常に大きな企業の場合でも、広報やSNS担当者が数名しかいないケースも珍しくありません。
しかし社会からは「大企業なのだから当然SNSを見ているはずだ」と認識されています。社内の実態と外部の認知のギャップを把握するためにも、日々のモニタリングが不可欠であって、理解しておかないと企業としては想定していないところで批判が広がってしまう可能性があります。

佐々木:例えば商品の値上げを発表した場合でも、日頃から誠実なイメージを築けている企業であれば理解されやすいですが、ネガティブな印象を持たれている企業の場合は「これ以上搾取するのか」といった批判に発展してしまうこともあります。
だからこそ、モニタリングを通じて社会の声を把握し、社内の実態と外部の認知とのギャップを明らかにしながら対応の方針を決めていくことが重要なのです。

▶ SNSモニタリングの方法とその判断のポイントを【無料】ダウンロード

まとめ

このコラムでは、二つの事例を通して、企業がカスハラや誹謗中傷に対して踏み切る際のポイントを紹介しました。企業が「サービスの停止」や「法的措置」といった強力な対応を行うには、社会的な自社の認知を把握し、世間の声を冷静に分析できるSNSモニタリング体制が不可欠です。

ただ、現実には多くの担当者が以下のような課題に直面しています。

商品やサービスのSNS口コミを常時
チェックする時間
がない

SNS炎上が拡大した際に、どこまで情報を公開し、謝罪すべきかわからない

火種は深夜や休日に突然発生し、知らない間にリスク投稿が拡散する

こうした課題を解決するために、エルテスでは「Webリスクモニタリングサービス」を提供しています。

企業は、従業員の安全とブランドの信頼を守る「守り」と、ガイドラインを正しく機能させる「攻め」の両面を意識しながら、Webリスクモニタリング体制を整備することが不可欠です。
リスクに備えた対応力を高めたい企業様は、お気軽にエルテスへお問い合わせください。

ネット炎上の対策・相談は、エルテスへ

コラム一覧へ戻る

著者|株式会社エルテスSR事業本部 CS
著者|株式会社エルテスSR事業本部 CS
CONTACT
見出し2装飾

上場しているからこその透明性の高いサービスを提供
1,000社以上への提供実績

お電話でのお問い合わせはこちら
(平日10:00~18:00)
ご不明な点はお気軽に
お問い合わせください
デジタルリスクに関するお役立ち資料を
ご用意しています
-SEARCH-
記事を探す

-PICKUP-
〈問い合わせ〉リスク対策を提案するエルテスの無料相談。

-SEMINAR-
開催予定のセミナー

-WHITEPAPER-
お役立ち資料

-COLUMN-

人気記事