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「情プラ法」で企業対応はどう変わる?自社・経営陣へのネット誹謗中傷・悪質口コミへの迅速対処法

近年、SNSやレビューサイト、匿名掲示板など、インターネット上における企業やその経営陣、従業員に対する誹謗中傷や悪質な口コミが社会問題化しています。一度投稿されたネガティブな情報は瞬く間に拡散され、デジタルタトゥーとして半永久的に残り続ける危険性があります。これは単なる個人の感情の問題にとどまらず、企業のブランドイメージ失墜、採用活動への悪影響、最悪の場合は株価下落や業績悪化に直結する重大な経営リスクです。

「事実無根の口コミで採用の辞退者が増えた」
「経営陣に対する誹謗中傷がSNSで拡散され、取引先から説明を求められた」
「悪質な投稿を削除したくても、手続きが複雑で時間がかかりすぎる」

――企業の広報担当者やリスクコンプライアンス担当者の皆様から、こうした悲痛な声が日々寄せられています。情報発信の民主化が進んだ現代において、企業は常に「炎上」や「風評被害」と隣り合わせにあります。

このような状況の中、2021年に成立・2022年に施行された「プロバイダ責任制限法(プロ責法)」の改正に続き、大規模なプラットフォーム事業者に対する規制を強化するため同法を抜本改定した「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称:情プラ法、情報流通プラットフォーム対処法)」の動きが活発化しています。2026年8月には、総務省が「pixiv(ピクシブ株式会社)」や「note(note株式会社)」などを新たに大規模プラットフォーム事業者に指定し、当該事業者には削除申請への迅速な対応が義務付けられるなど法的な枠組みを通じた被害者救済の道が整備されつつあります。

本コラムでは、情プラ法を中心とした最新の法規制の動向を解説するとともに、企業や経営陣に対するネット上の誹謗中傷・悪質口コミに対して、いかに迅速かつ効果的に対処すべきか、その実務的なステップと体制構築のポイントについて詳しく解説します。

改正プロ責法と情プラ法の概要

企業が自衛の手段を講じる上で、まずは法的背景を正しく理解することが不可欠です。ネット上の誹謗中傷への法的な対処は、大きく「投稿の削除依頼」と「発信者情報開示請求(投稿者の特定)」の2つに分かれます。このプロセスを劇的に変えたのが、近年の法改正です。

改正プロバイダ責任制限法による「非訟手続き」の創設(2022年施行)

かつて、匿名の投稿者を特定するためには、「コンテンツプロバイダ(SNS運営会社等)へのIPアドレス開示請求」と「アクセスプロバイダ(携帯キャリア等)への氏名・住所開示請求」という、2段階の煩雑な裁判手続きが必要でした。これには数ヶ月から1年以上の時間と多額の費用がかかり、被害企業にとって大きなハードルとなっていました。

この課題を解決したのが、2022年10月に施行された改正プロ責法です。新たに「発信者情報開示命令事件」という非訟手続き(通常の訴訟よりも簡易・迅速な手続き)が創設され、1回の裁判手続きでコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダ双方に対する開示請求を同時に進めることが可能になりました。これにより、投稿者特定のスピードが大幅に向上しました。

「情プラ法」によるプラットフォーム事業者への義務強化

そして現在、さらに注目すべきなのが「情プラ法」の運用強化です。総務省は、X(旧Twitter)、Meta(Facebook/Instagram)、Google(YouTube等)といった巨大IT企業に加え、国内の大規模プラットフォーム(直近ではpixivやnoteなども追加指定)に対して、違法・有害情報の削除や発信者情報開示の申請に対して、より透明かつ迅速に対応することを求めています。

具体的には、プラットフォーム事業者に対し、削除申請の窓口の明確化、一定期間内(例:14日以内など)の審査結果の通知、削除基準の公表などを義務付ける方向で議論や運用が進んでいます。これは、「プラットフォーム側が放置する」という事態を防ぎ、企業が法的手続きをちらつかせずとも、運営側の規約違反に基づく削除対応を引き出しやすくなるという点で、企業のリスク管理上非常にポジティブな変化と言えます。

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企業に実害をもたらす「悪質口コミ・誹謗中傷」のパターン

法改正により対処のハードルが下がったとはいえ、すべてのネガティブな意見を削除できるわけではありません。「正当な批判」と「違法性のある誹謗中傷」を見極めることが、実務における最初の関門です。企業への攻撃は、主に以下のパターンに分類されます。

事実無根の虚偽情報の流布(名誉毀損・信用毀損)

例:「あの会社の製品には有毒物質が含まれている」「経営陣が反社会的勢力と繋がっている」

明確な虚偽によって企業の社会的評価を低下させるものであり、法的措置の対象になりやすい典型例です。

侮辱的・攻撃的な表現(侮辱罪)

例:「〇〇社長は無能のクズだ」「ブラック企業、さっさと潰れろ」

具体的な事実の摘示がなくても、公然と企業や個人を貶める表現は侮辱にあたります。

業務妨害(威力業務妨害・偽計業務妨害)

例:「〇〇日の〇時に本社に爆発物を仕掛ける」「(飲食店の予約サイトで)大量の無断キャンセルを行う」

実業務に直接的な支障をきたす行為であり、即時の警察相談が必要です。

従業員のプライバシー侵害・個人情報晒し

例:「クレーム対応した〇〇という社員の顔写真と実名を晒す」

カスタマーハラスメント(カスハラ)の一環として近年急増しており、企業は「安全配慮義務」の観点から従業員を守る必要があります。

注意すべきは、商品に対する「カスタマーセンターの電話が繋がらなかった」「味が美味しくなかった」といった主観的な低評価や、事実に基づく正当な批判(内部告発など)は、法的措置の対象にはならないという点です。ここを履き違えて強引な削除要請を行うと、「企業が不都合な真実を隠蔽しようとしている」と受け取られ、炎上をさらに拡大させる(ストライサンド効果)危険性があります。

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自社・経営陣を守るための「迅速対処」4つのステップ

実際に自社に対する誹謗中傷や悪質な口コミを発見した場合、企業の担当者はどのような手順で動くべきでしょうか。初動の遅れは被害の拡大に直結します。以下の4ステップを社内の規定として整備しておくことが推奨されます。

ステップ1:証拠保全(対象投稿のスクリーンショット等による保存)

  • 対象の投稿内容がすべて読める状態のスクリーンショット
  • 投稿のURL(各SNSの個別投稿リンク)
  • 投稿日時の記録
  • 対象アカウントのプロフィール画面とユーザーID(@から始まる英数字)

これらを、できればPDF等の改ざんしにくいフォーマットで保存します。

ステップ2:影響度の評価と対応方針の決定

発見した情報が、自社にどの程度の影響を与えるかを迅速に評価します。

  • 静観(モニタリング継続):フォロワー数が極端に少なく拡散の兆候がない、または主観的な意見に留まる場合。
  • サイト管理者への削除要請:明らかな規約違反(暴言、個人情報の無断掲載など)であるが、訴訟費用をかけるほどの実害には至っていない場合。
  • 法的措置(開示請求・損害賠償・刑事告訴):明白な虚偽情報で株価や採用に悪影響が出ている、経営者への殺害予告がある、継続的かつ悪質な粘着投稿である場合。

この判断基準を平時から社内でルール化(エスカレーションフローの構築)しておくことで、有事の際の迷いをなくすことができます。

ステップ3:プラットフォームへの削除申請(サイト外手続き)

情プラ法の強化により、プラットフォーム事業者の対応窓口や基準が明確化されつつあります。まずは対象となるSNSや掲示板(X、Googleレビュー、5ちゃんねる等)の専用フォームから削除申請を行います。

この際、「規約のどの部分に違反しているか」「どの権利(名誉権、プライバシー権など)が侵害されているか」を、感情的にならず論理的かつ具体的に記載することが、削除成功率を上げるポイントです。

ステップ4:法的措置(発信者情報開示請求)への移行

サイト管理者への削除要請が通らない、あるいは損害賠償請求や刑事告訴を見据えて「誰が書いたのか」を特定する必要がある場合は、弁護士を通じて「発信者情報開示命令事件」の非訟手続きに移行します。

通信ログ(IPアドレス)の保存期間は、一般的に携帯キャリアで3ヶ月〜6ヶ月程度と非常に短いため、ステップ2の段階で「法的措置も辞さない」と判断した場合は、速やかに通信ログの保全要請をかけるスピード感が求められます。

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デジタルリスクに強い組織体制の構築

ネット上の誹謗中傷被害を最小限に抑えるためには、有事の対応だけでなく「平時の備え」が不可欠です。エルテスでは、以下の3つの観点から企業の体制構築を支援しています。

① 常時モニタリング体制の構築

24時間365日、SNSやWeb上の情報を監視する体制が必要です。手動での検索には限界があるため、自社名や役員名、ブランド名とネガティブワード(「炎上」「ブラック」「最悪」など)の掛け合わせを自動検知し、火種を早期発見できる「Webリスクモニタリング」などの導入が効果的です。

② ガイドラインとエスカレーションフローの策定

「ルール策定支援」を活用し、インシデント発生時に、「誰が・誰に・どう報告し・誰が判断を下すのか」を明確にしたマニュアルを整備します。有事の際に迅速に動けるよう、広報部門、法務部門、リスク管理部門、そして経営陣をつなぐ実践的な連携ルートをあらかじめ確立しておきましょう。

③ 外部専門家(弁護士・コンサルタント)との連携強化

誹謗中傷への対応は、高度な法的知識とITリテラシー、そして炎上メカニズムへの深い理解が求められます。いざという時に即座に相談できるネット問題に強い弁護士や、デジタルリスクの専門機関とのホットラインを平時から構築しておくことが、最大の防御となります。

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まとめ

ネット上の悪質な誹謗中傷や風評被害は、もはや「ネット上の小さなトラブル」と見過ごすことはできません。企業価値を毀損し、従業員のモチベーションを削ぎ、経営を揺るがす深刻なリスクです。

しかし、悲観することばかりではありません。「改正プロ責法」による手続きの迅速化や、「情プラ法」の拡充による巨大プラットフォーマーへの責任追及など、被害企業が自衛するための法的な武器は確実に整いつつあります。

企業の広報担当者やリスク管理担当者に今求められているのは、「正当な批判には真摯に耳を傾けつつ、違法・悪質な誹謗中傷には法的手続きを含めた毅然とした態度で立ち向かう」という明確な方針(ポリシー)を社内外に示すことです。それが、ステークホルダーからの信頼を守り、従業員が安心して働ける環境を提供することに繋がります。

デジタルリスクは進化し続けています。常に最新のトレンドと法制動向をキャッチアップし、自社のブランドと信用を守り抜く強靭なリスクマネジメント体制を構築していきましょう。

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著者|株式会社エルテス 久松剛
著者|株式会社エルテス 久松剛
SR事業本部 SR CS部 第3CSグループ|大学卒業後、大手広告代理店を経て独立して長年にわたり広告業に従事。2024年にエルテスに入社。企業のリスクマネジメントやデジタルリスクに対処。これまでの経験を活かし「攻め」と「守り」の両面を理解したコンサルタントとしてクライアント企業のリスク低減に向けたサポートを行っている。
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