ネット炎上レポート 2023年7月版
2023年7月の炎上事例を調査・分析し、ネット炎上の傾向をまとめたレポートとしてご報告いたします。
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ネット炎上レポートとは
株式会社エルテスでは、公開されているSNSデータを独自に収集・分析を行い、2019年8月より月次でのネット炎上レポートを公開しております。企業の広報やリスク管理を行う方々に炎上トレンドをお伝えすることで、自社のレピュテーション保護を行っていただきたいという想いを持ち、作成しております。
また、これら炎上事例は、下記の“エルテスの定義するネット炎上”を満たす事例を抽出し、分析を行っております。
エルテスの定義するネット炎上
▼前提条件
以下の二つの条件を満たしている必要がある
1.批判や非難が発生している(ポジティブな共感の拡散等ではない)
2.対象に対する批判の投稿量が、通常時と比較しても有意に多い状態
▼定義
ネット炎上とは、オフライン・オンラインでの行動や発言に対して、ネット上で批判が殺到し、拡散している状態を指します。対象に対する批判の投稿量が、通常時と比較して有意に多いことが条件となります。
▼炎上事例の収集方法
SNSやメディアの中で、批判が殺到しやすい媒体を複数選定し、常時ウォッチング。その中で、上記の条件を満たす事象を確認した場合、炎上事例と認定しています。
2023年7月のネット炎上トレンド
2023年7月に発生した炎上で最も多かった炎上対象は、「企業・団体」が68%(前月比2ポイント減)となりました。「マスメディア」が18%(6ポイント増)と続き、前月にインフルエンサーの不適切行為での炎上が散見された「個人・著名人」は7%(8ポイント減)となり、半減しています。
また、どのような業態が炎上したのかを示す「企業・団体」の炎上区分の内訳は「サービス」が全体の36%(4ポイント減)を占めています。次いで、「自治体・団体」(8ポイント増)と「教育機関」(5ポイント増)がそれぞれ11%となっています。「IT」は7%(2ポイント減)、「メーカー」が3%(6ポイント減)と続きます。(図1)
収集データを元にエルテスが作成
「企業・団体」を対象とする炎上内容における分析では、「顧客クレーム・批判」が53%(1ポイント減)と前月に続いて全体の半数を占めています。次いで「不適切発言・行為、失言」が26%(7ポイント減)、教育機関や自治体のニュースが散見された「不祥事/事件ニュース」が21%(8ポイント増)と大きくポイントを増加させる結果となりました。(図2)
収集データを元にエルテスが作成
配布していた子育てママに向けたアンケート調査資料が炎上
行政が子育て世帯に向けて、配布していたアンケート調査資料が炎上しました。そこには、子育てを経験しているパパに聞いたアンケート結果が掲載され、質問として「妻にされて嫌だったこと」などが挙げられ、「家事をしてくれないことが嫌だった」や「家事はそれなりにやってほしい」といった意見が羅列されていました。
これに対し、SNSでは妊婦向けの資料として不適切だとの批判が多く寄せられました。また、この資料は5年前に作成されており、内容のメンテナンスを行わずに配布され続けていたことに対しても、時流に合わせて見直すべきだったのでは?という意見が見られています。行政は、批判を受けて資料の配布を取りやめ、市長からは謝罪文が公式SNSアカウントに投稿されました。
原爆に関する映画とコラージュしたファンアートに好意的な反応をした公式アカウントに批判
アメリカで公開された注目の実写映画の公式SNSアカウントが、一般ユーザーが作成したアート(ファンアート)にSNS上で返信を行ったことに対して、日本国内で多くの批判の声が寄せられました。ファンアートは、アメリカ国内で同時期に公開された原爆開発者の伝記映画とのコラボを表現したコラージュした作品で、2本の人気作品を同時に見に行こうというプロモーションが背景にあります。ファンアートは、SNS上のハッシュタグとともに盛り上がりを見せていました。そのような中で、公式SNSアカウントがこれらにリプライを送る形でポジティブなコメントを発信しました。
この発信に対し、日本国内を中心に「原爆を軽視している」といった批判が相次ぎました。不買を訴える声や抗議運動として映画の公開中止を求める声もみられています。
日本国内向けに運用されている公式SNSアカウントでは、原爆とのコラージュやファンアートは公式でないことを明記したうえで、公式SNSアカウントの対応は配慮に欠けていると声明を発表しています。アメリカの本社に対してしかるべき対応を求めるとしていましたが、本社はメディアに対しての謝罪文のリリース、当該の投稿を行った公式SNSアカウントは投稿を削除するにとどまっています。今回の事象発生の背景には、国内外で原爆に対する歴史的な解釈が異なることが挙げられます。
また、ファンアートとは異なる観点でも議論が巻き起こっています。本映画の予告編のワンシーンで、領有権が争われている地域の表現に対して、ベトナムやフィリピンで話題となり、ベトナムでは上映禁止となっています。
まとめ
7月には、情報発信から時間が経過して注目された事例や海外での情報発信が日本国内で炎上した事例など、企業担当者の予期せぬタイミングで炎上してしまうものが複数見られました。
発信から時間が経過して注目された事例では、5年前に発行したものの今回の批判まで炎上せずに配布し続けられていました。5年前であれば、それほど大きく問題視されなかったものが、時間の経過によって社会的通念が変化し、「時代錯誤」の内容となったことが批判のポイントであると言えます。過去に発行した文書は、時代の変化に伴って、批判される意見となるリスクをはらんでいるため、定期的な見直しとブラッシュアップは必要不可欠でしょう。
また、海外での発信が日本国内で炎上した事例は、グローバルな情報発信を行う企業にとって、備えるべきリスクです。歴史的な問題や宗教など、国内外で認識の異なる事柄を含む発信を行う場合には、対象となる国や地域においてどのような認識がなされているのか、どのような点に注意した発信が求められるのかを調査したうえでコンテンツを作成することを推奨します。
本レポートでは、実際の炎上事例をもとになぜ炎上が起きたのか、自身が当事者だった場合にどのような対応を取ったのかを想像しながら、ご自身の所属する企業のリスク対策にお役立ていただければと思います。