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【後編】有事における論理的な説明は、なぜ火に油を注ぐのか|とある信用金庫の風評対策に学ぶ、被害の鎮静化と現代のSNS対策

本記事は全3部構成でお届けしています。

中編に引き続き、「視覚的な広報」を取り入れたことで、風評被害対策が功を奏した具体的な事例を深掘りしていきます。

このコラムでは、1973年に起きた「とある信用金庫の取り付け騒ぎ」を取り上げ、論理的な説明が逆効果となった初期対策の失敗と、視覚に訴求する広報で風評被害の収束に成功するまでのプロセスを紐解きながら、現代のデジタル時代において企業に求められる風評被害対策のあり方について皆様と一緒に模索していきたいと思います。

悪意のない冗談から始まった風評パニック

有事における論理的な説明が、かえって風評被害の拡大に繋がった事例として、オイルショック時のトイレットペーパー騒動に匹敵する象徴的な事件があります。1973年、愛知県内の信用金庫を舞台に巻き起こった「取り付け騒ぎ」です。ごく平凡な世間話が発端となり、わずか7日間ほどで約20億円もの預金が引き出されるという、大規模なパニックへと発展した事例です。

この未曾有の事態を受け、第三者による信用金庫への信用棄損の疑いで、警察が異例の捜査を敢行した結果、デマの源流が克明に突き止められました。それゆえに、情報の伝播経路や因果関係が明確となっており、根拠のない噂が暴走するメカニズムを紐解く上で、極めて示唆に富む教訓を与えてくれます。

事の発端は、地元の信用金庫への就職が決まった女子高生と友人が交わした他愛ない雑談でした。「信用金庫は(強盗が入るかもしれないから)危ないよ」という何気ない一言を真に受けた女子高生が、親戚に「私の就職先、危ないのかしら」と相談したところから、伝言ゲームが始まります。人から人へと伝播する中で、本来の文脈であった「治安への懸念」は欠落し、「あそこの信用金庫は経営が危ないらしい」という全く別のデマへと変質し、瞬く間に地域社会へと広がってしまったのです。

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信用金庫の風評対策:被害の沈静化にかけての変遷

騒ぎが大きくなり始めた頃、当該信用金庫や関係機関は、このデマを論理的に否定しました。しかし、残念ながら事象発生初期から中期にかけての風評被害対策はことごとく事態を悪化させる結果を招いてしまったのです。

まず、信用金庫側が「そのような事実はない、デマである」と公式な声明を発表しましたが、パニックに陥った顧客からは「火のない所に煙は立たない」「本当は何か隠蔽しようとしているのでは」と勘繰られ、かえって火に油を注ぐ結果を招きました。

さらに事態を重く見た日本銀行や当時の大蔵省が「同金庫の経営は健全である」という異例の談話を発表しましたが、これも逆効果でした。住民たちは「国がわざわざ出てくるなんて、本当は相当深刻な事態なんだ」と解釈し、さらなる不安やデマを煽る事態を招いてしまったのです。

挙句の果てには、当該信用金庫の周辺で雑踏警備をしている警察官をみて「当該信用金庫が強制捜査を受けている」など、とんでもないデマまで飛び交う事態にまで発展しました。

パニックに陥った人々に対する『論理的な説明』は、単なる『言い訳』や『証拠隠滅』と捉えられてしまいました。この事例は、情報の伝達速度が飛躍的に高まった現代の危機管理広報においても、決して忘れてはならない教訓と言えるでしょう。

また、当該事案が発生した時期は中編で紹介したトイレットぺーパー騒動と同時期であり、オイルショックによる社会不安が背景にあったという点も、風評パニックに陥った要因として無視することはできません。

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視覚に訴求する対策でパニックを鎮めた最終局面

事態が限界に達した12月中旬、当該信用金庫と日本銀行は、それまでの言葉主体の説得から、いくつかの対策方法に転換しました。主な2つの対策を挙げて解説します。

第一の策は、「視覚で安心を訴求する」です。日本銀行から緊急融資を受けた資金を店頭に配置し、「手元に資金がないのではないか」という人々の不安に対し、「いつでも返せる金がここにある」という視覚的な安心材料を提供しました。

第二の策は、「公的機関のバックアップによる無休対応」です。「営業時間外だから明日来てください」と言ったら、「やっぱり金がないんだ」と思われるため、夜間も営業を継続し、日曜日も臨時営業し、希望者全員に現金を払い出し続けました。

その結果、「いつでも預金を引き出せる」と確信した住民たちは不安が解消され、それどころか「わざわざ今引き出して、泥棒に狙われるリスクを冒す必要はない」と冷静さを取り戻し、行列は急速に消えていきました。

初期対策が事態の収束に繋がらない状況を鑑み、対策方法を大きく転換した事で最終的に見事にリカバリーし、事態を収束に導いたのです。

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アナログ時代の教訓から考える、現代のSNS対策

この事案における風評被害対策は、「不安に陥った大衆心理の沈静化には、言葉(論理)よりも視覚」という本質を教えてくれました。

「視覚でパニックを鎮める」という手法は、時代を問わず有効なアプローチです。中編で紹介した「トイレットペーパー騒動」を例に挙げると、1970年代のオイルショック時には「在庫はある」という言葉だけの論理的な説明がパニックを加速させましたが、2020年のコロナ禍では、経済産業省やメーカーがSNSを駆使して、山積みになったトイレットペーパーの在庫写真や動画を直接消費者の視覚に届けました。この「目に見える証拠」の提示が、買い占め騒動を最小限に抑え込めたのです。

現代には「リカバリーのための時間的猶予」が存在しない

しかし、こうした普遍的な教訓を現代のデジタル社会に当てはめたとき、企業は時代の変化も考慮する必要があります。それは「リカバリーのための時間的猶予が圧倒的に少ない」ことです。

先述した取り付け騒ぎが起きた時代には、初期の言葉による対応に失敗しても、最終的に現金を山積みにして事態を収束させるまでの「数日間の猶予」がありました。しかし、情報が瞬時に拡散する現代のSNS空間では、数日どころか「わずか数時間」で風評が実社会に反映されます。 一度SNSで火がつけば、企業が「視覚的な証拠」を準備をする間もなく、株価の下落や不買運動といった被害に瞬く間に波及していきます。

風評の火種を「ボヤ」のうちに消し止める体制の構築

だからこそ現代の企業には、問題が大きくなってから対応を協議する「事後対応」ではなく、火種が小さな「ボヤ」のうちにSNS上の異変をいちはやく察知するスピードが求められます。

デマが拡散しきって大衆がパニックに陥る前に、透明性の高い説明や視覚的証拠を迅速に提示し、不安の連鎖を断ち切る。その「初動の速さ」こそが、これからの企業防衛の成否を決定づける最重要課題となります。

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有事の風評被害対策・SNSモニタリングならエルテス

エルテスは、24時間365日体制でSNSなどの論調を監視する「Webリスクモニタリング」により、企業を脅かす風評被害や炎上の予兆を早期検知します。


さらに、このコラムで触れたような大衆心理の深い洞察を持つ専門家が、有事における最適な情報開示やコミュニケーション戦略の構築に伴走し、貴社のブランド価値を高める風評対策を支援いたします。

まとめ

視覚に訴えかける風評被害対策は時代を超えて普遍的な効果を持ちます。しかし、SNSとデジタルツールの普及した現代において、予期せぬ風評被害はあっという間に企業の存続を脅かすリスクとなり、かつてのようにリカバリーする時間的猶予が格段に少なくなっています。

この未曾有のスピードに対抗し、被害を最小限に留めるためには、常日頃からの論調モニタリングと、初動対応の迅速化が欠かせません。有事の風評被害対応や危機管理体制を強化したいとお考えの方は、ぜひお気軽にエルテスへご相談ください。

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著者|株式会社エルテス 野村省吾
著者|株式会社エルテス 野村省吾
SR事業本部 SR CS部 第1CSグループ|専門商社、危機管理コンサルティングファームを経て株式会社エルテスに入社。前職では多数の企業の内部統制構築や有事のクライシス対応を最前線で支援。エルテスではその経験を活かし、SNS炎上をはじめとするデジタルリスク全般のコンサルティング業務に従事している。現場のリアルな知見と、経営戦略視点でのリスク分析を掛け合わせたコンサルティングに定評があり、平時の体制構築から有事のリカバリーまで一気通貫した支援に強みを持つ。
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