
コンプライアンス違反の事例10選 原因や企業側の対策も紹介
企業がこれまで積み重ねてきた価値や信頼を一瞬で失う可能性のあるコンプライアンス違反。このような事態にならないためにも、コンプライアンスについてきちんと理解し、対策する必要があります。
本記事では、コンプライアンスの違反事例から、企業のリスクや対応策について解説します。
目次[非表示]
- 1.コンプライアンス違反とは?
- 2.企業のコンプライアンス違反事例10選
- 2.1.全国旅行支援の不正請求
- 2.2.新型コロナウイルスの雇用調整助成金を不正に受給
- 2.3.中古車販売企業による修理費用の水増し
- 2.4.大手製薬企業による医薬品の異成分混入
- 2.5.大手銀行が顧客の個人情報を不正に利用
- 2.6.大手通信企業のグループ企業が顧客情報を漏洩
- 2.7.県職員によるセクハラ・県警察本部でのパワハラ
- 2.8.大手広告代理店の女性社員が過労死
- 2.9.大手小売企業のデザイナーがSNSのイラストを無断使用
- 2.10.飲食店での悪ふざけの動画投稿で炎上
- 3.個人が起こすコンプライアンス違反の例
- 3.1.会社の備品・設備の私的利用
- 3.2.無許可でのデータ持ち出し・データコピー
- 3.3.経費の水増し
- 4.コンプライアンス違反が起きる3つの原因
- 5.コンプライアンス違反による悪影響
- 5.1.ブランド毀損・企業の信頼が失われる
- 5.2.法令違反による行政処分
- 5.3.損害賠償を請求される
- 6.コンプライアンスの違反事例から学ぶ防止策とは
- 7.デジタル空間におけるコンプライアンス違反
- 8.まとめ
- 9.関連情報
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コンプライアンス違反とは?
企業における「コンプライアンス」とは、法律や倫理・道徳を守り経営活動を行うことを指します。そのため、「コンプライアンス違反」は、社会的倫理観・道徳観やルールに違反する、意図的に不正を働くなどの意味を持ちます。
コーポレートガバナンスやCSRとコンプライアンスの違い
コンプライアンスに似た用語の一つに「コーポレートガバナンス」がありますが、これは直訳で「企業統治」という意味を持ちます。
金融庁と東京証券取引所が上場企業向けに定めた規定である「コーポレートガバナンス・コード」では、「企業が、株主や顧客、従業員、地域社会などの立場を踏まえた上で、公正・透明に、またスピーディーかつ果断に意思決定を行うための仕組み」と定義されています。
つまり、コンプライアンスはコーポレートガバナンスの一つの要素として組み込まれているため、違反が起きた時には、コーポレートガバナンスの問題としてとらえられる場合があります。
また、コンプライアンス関連のニュースなどでは、「CSR」という言葉もよく聞きますが、CSRは「Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任」という意味を持ちます。企業に対し、環境や次世代へ配慮しながら地域社会などへ責任をもって行動し、説明責任を果たすことを求める考え方です。
CSRを含む企業活動の前提となるものがコンプライアンスであり、企業の社会的責任を果たすには、コンプライアンスへの取り組みが欠かせないとも言えます。
企業のコンプライアンス違反事例10選
全国旅行支援の不正請求
旅行業界の大手企業が、勤務実態のない人件費として約530万円もの不正請求していました。
同社では、自治体から委託された旅行支援事業の中で、キャンペーン運営事務局として、一日につき10~15人が勤務するという取り決めをしていたそうです。その中で、同社は「勤務実態が無いスタッフのタイムカードを作成する」「人件費がより安い外部派遣会社に業務委託する」などの不正を行っていたといいます。
大手企業の信頼を損なわせる重大なコンプライアンス違反でした。
新型コロナウイルスの雇用調整助成金を不正に受給
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主に対して行われた雇用調整助成金を美容室や居酒屋を経営する企業が不正に受給していたことが明らかになったケースがありました。
雇用調整助成金は本来、新型コロナウイルスに感染した従業員が会社を休み、その際の給与を支払った企業に支給されるものです。しかし、実際は感染者がいない、または仕事を休んだ分の給料を支払っていないにも関わらず虚偽の申請を行い、不正に金銭を取得したという事態が発覚しました。
中古車販売企業による修理費用の水増し
中古車販売企業が自動車の修理費用の水増しを行ったのも、コンプライアンス違反で大きな話題を集めた事例の一つです。
同社では修理するために顧客から預かった自動車を故意に傷つけ、損害保険金を水増しして損害保険会社に請求したことが明らかになっています。これにより損害保険会社は水増しされた保険金を支払い、顧客は所有する自動車に本来なら無いはずの傷をつけられるなど、多方面への不利益が出ました。
同社には関連会社から複数名の出向しており、不正を認識していた疑いのある関連会社まで金融庁から立ち入り検査されるという事態にまで発展しました。
大手製薬企業による医薬品の異成分混入
大手製薬企業では、医薬品の異成分混入が発生しました。
同社では国に承認されていない工程を採用して薬を製造していたとされ、真菌症を治療する薬に睡眠導入剤の成分が混入してしまう事態にまで発展しました。結果として、240人以上が健康被害を受けるという深刻な結果を招いています。この件について、自治体は同社に業務改善命令と116日間の業務停止命令を出しています。
しかし、業務停止命令の後も製造・販売を再開することはなく、他の大手薬品企業に工場などを譲渡する結果となりました。
大手銀行が顧客の個人情報を不正に利用
日本国内でも有数の某メガバンクでは、2024年6月に個人情報を不正利用していたことが発覚しました。
この事例では、顧客の内部情報を証券会社に無断で共有していたほか、グループ企業である証券会社との有価証券取引を融資先企業に勧誘していました。これらの行為が金融商品取引法などに違反している疑いがあったため、証券取引等監視委員会は銀行3社への行政処分を勧告する方針を示しました。
大手通信企業のグループ企業が顧客情報を漏洩
大手通信企業では、グループ企業による顧客情報の持ち出しが発覚しました。
同社はコールセンター業務を手掛けており、コールセンターの運用を担当するグループ企業の元派遣社員が約900万件もの個人情報を不正に持ち出していることが確認されました。データへの不正アクセスは10年ほど続いており、データ管理用のサーバーから直接ダウンロードされたとのことです。
社内のセキュリティ対策が十分でなかったことが仇となり、長期間にわたる情報流出が確認されたケースです。
県職員によるセクハラ・県警察本部でのパワハラ
勤務時間中に繰り返し性的な発言をするなど、ある県の地域県政総合センターの男性職員がセクシャルハラスメントによる懲戒処分を受けました。
この事例では、女性職員への執拗な嫌がらせをはじめ、男性職員への不適切発言や言動も見受けられたため、上司にも文書での訓戒が為されました。
また、別の県の県警察でも体罰や大声での叱責などのハラスメントが発覚しました。悪口や嫌がらせ、無視、育児休暇取得の遠回しな拒否、アルハラ(アルコールハラスメント)などがあったと判明しており、公的機関での職場いじめが波紋を呼びました。
大手広告代理店の女性社員が過労死
大手広告代理店に入社したばかりの女性社員が慢性的な長時間労働に陥り、過労で精神を病んだ末に自死へと追い込まれた事件もコンプライアンス違反に該当します。
この事例では、企業側の安全配慮義務違反が認められたことから、およそ1億6,800万円の損害賠償金を支払うことが決定しました。
健全な労務管理、正確な勤怠実績の把握、業務の効率化・補充人員の不足といった様々な原因が絡み合った事件であり、組織のマネジメントや企業体質について再考される契機となりました。
大手小売企業のデザイナーがSNSのイラストを無断使用
大手小売企業のデザイナーがSNS上のイラストを無断で使用したというコンプライアンス違反事例もあります。
このような無断使用の事例は、無断で作品を使用されたイラストレーター本人やファンからの指摘により明らかになる傾向があるうえ、多少のアレンジを施したデザインであっても著作権法に違反する可能性があります。
企業としてはこうした行為が自社ブランドに傷をつけ、消費者が抱く不信感も簡単に払拭できなくなるため、注意すべき大きなリスクといえます。
飲食店での悪ふざけの動画投稿で炎上
大手飲食店ではアルバイトの悪ふざけの動画がSNSで拡散され、炎上した事例があります。
動画では、アルバイト従業員が店内でホイップクリームを直接口に流し込まれる様子が映っており、SNSでは衛生面への懸念や店の管理体制への指摘が相次ぎました。
SNSが普及してからアルバイトの不適切行為は「バイトテロ」とも呼ばれメディアでも取り上げられるほどの社会問題となりましたが、今でも定期的に問題となっています。
個人が起こすコンプライアンス違反の例
個人が気づかないうちに起こしてしまうコンプライアンス違反も存在します。
ここでは個人によって引き起こされる可能性があるコンプライアンス違反を3つ紹介します。
会社の備品・設備の私的利用
個人が起こしがちなコンプライアンス違反の一例として、社内設備・備品の私的利用が挙げられます。
企業では、仕事上で必要な備品・設備は社員が自由に使用できるようになっていることが多いです。こうした備品・設備を業務で使うのは問題ありませんが、私的に利用するとコンプライアンス違反となるため注意しましょう。
具体例としては「会社で使う筆記具を自宅に持ち帰って使う」という行為はコンプライアンス違反に該当する可能性があります。「この程度であれば問題ないだろう」と個人が勝手に判断してしまうケースが多く、社員の意識改革が必要となるケースです。
無許可でのデータ持ち出し・データコピー
会社の許可を得ることなく、会社が保有する個人情報や企業秘密などをコピーする・持ち出すなどの行為もコンプライアンス違反に当てはまります。
データのコピー・持ち出しの中でも顕著なのは「社外で業務を進めるため」という理由から悪気なくデータを持ち出すというケースです。USBメモリへのコピーやクラウドへの保存などもコンプライアンス違反となります。
業務上の必要からデータを持ち出す場合は社内のセキュリティルールを遵守し、必要であればコピー・持ち出しの許可を取りましょう。
経費の水増し
経費の水増しも個人が引き起こしがちなコンプライアンス違反の一つです。経費の金額を正しく計算せず、誤った金額で経費計上してしまうなどの行為が当てはまります。
また、業務に関係のない物品などを経費に計上する行為もコンプライアンス違反となります。具体的には「同僚との飲食を得意先との接待と称して経費計上する」などの行為が経費の水増しとみなされます。
何が経費となるのかは企業によって判断基準が曖昧である場合も多く、個人の判断で違反してしまうこともあるため、自己判断ではなく、事前の確認が重要です。
コンプライアンス違反が起きる3つの原因
コンプライアンス違反は知識不足、社内体制の問題などから起こるため、コンプライアンス違反が起こりやすい環境を形成しないことが重要です。
ここではコンプライアンス違反が起きる3つの原因を紹介します。
経営層・従業員のコンプライアンス関連の知識不足
社内規則や法令、社会倫理などの正しい知識がなければルールを守ることも叶いません。従業員はもちろん、企業の経営層も同様です。「コンプライアンスとはどういったものか」「なぜコンプライアンスに違反してはならないか」を十分に周知する必要があります。、また、どのような事柄がコンプライアンス違反に該当するか具体的に知り、理解を深めることも大切です。
コンプライアンス関連の基礎知識が十分でないために、気づかない間にコンプライアンス違反をしているケースもあります。たとえば、労務管理の場面で「最低賃金が上がっていたのを知らなかった」「育児休暇の取得は会社として拒否できると思っていた」などの事象が発生することがあります。
働き方や規範意識のアップデート不足
「入社年次・年齢が高い」「役職者である」などであれば、なおさら働き方や規範意識をアップデートするという意識を持つ必要があります。「昔は当たり前だったことでも現代ではコンプライアンス違反に当てはまる」ということはよくある話です。
コンプライアンス対策で言われる「社内規則」「法令」「社会倫理」などはいずれも永続的なものではありません。法令は逐次アップデートされ、社内規則も時代の変化や法令改正に即して変わりゆくものです。社会倫理に明確な基準はありませんが、人権意識や環境などへの倫理観は時代とともに変化します。こうした変化に対応できていなければ、気づかないうちにコンプライアンスに反する言動をしてしまう可能性があります。
また、規範意識やモラルが欠けていると、ハラスメント行為、個人情報の流出、SNSの炎上が発生しやすくなります。「多分バレないだろう」と他人の作品を盗作する、「面白いからOK」と悪ふざけしている動画をSNSにアップするのは、モラルの欠如による行為です。
コンプライアンス違反を防止する体制ができていない
コンプライアンス違反を防ぐには、前もって会社として予防する体制を整えておくことが大切です。仮に、法改正ごとに管理体制を見直す企業と、何も対策を講じていない企業を比較した場合、後者の方がコンプライアンス違反のリスクが高くなるのは容易に想像できます。
従業員の意識に頼るだけではコンプライアンス違反の予防効果は限定的です。コンプライアンス違反に関する明確な指針を設けて、コンプライアンス遵守の体制を整えることが企業に求められる取り組みです。
コンプライアンス違反による悪影響
コンプライアンス違反を起こした企業は、多大な影響や様々なリスクを背負うことがあります。
ここではコンプライアンス違反による悪影響の例を3つご紹介します。
ブランド毀損・企業の信頼が失われる
コンプライアンス問題における最大のデメリットは、企業のブランドイメージが毀損され、社会的な信用を失うことです。
現代社会ではSNSが広く普及しており、コンプライアンス違反が社会に大きく影響を及ぼす内容であった場合、ネット上で炎上に発展するケースも多く見られます。ひとたび炎上すれば瞬く間に注目が集まり、それまで興味を持たなかった消費者もその不祥事に関心を持ちやすくなります。これにより、企業の信頼度は加速して低下する恐れがあります。
法令違反による行政処分
景品表示法、下請法といった企業が遵守しなければならない法律は数多くありますが、もし刑法に触れるコンプライアンス違反が起きた場合、重い行政処分が下されることもあります。
時には当事者が逮捕され、社内に家宅捜索が入るケースもあり得ます。たった一人の社員が起こした違反であっても企業の管理不足とみなされ、管理責任を問われる場合があるので注意しましょう。
損害賠償を請求される
人命に関わるような内容のコンプライアンス違反の場合、遺族から損害賠償を請求され、提訴されることもあります。
たとえば、パワハラが発覚した場合の損害賠償は本人や企業に各30~100万円ほどの金額が請求されるといわれています。また、未払いの残業代などがあれば、さらに損害賠償の金額が上がります。内容次第では経営に影響するほどの賠償金が課される恐れもあります。
コンプライアンスの違反事例から学ぶ防止策とは
コンプライアンスの違反事例から学ぶことは多くあります。違反を防ぐためには、どのような策を講じればいいのでしょうか。
研修などを通じた社員への定期的な周知
企業では、社員に対してコンプライアンス違反対策を行うことが必要不可欠です。社内研修・勉強会を定期的に実施することにより、コンプライアンスへの意識が向上します。
社外から講師を招いてもいいですし、グループワークを含む参加型にするとより効果が高まるでしょう。
通報窓口・相談窓口の設置
コンプライアンス違反が起きた時に、社員が内部告発をするための通報窓口・相談窓口を設置しておくことも大切です。
社員が安心して相談・通報できるよう、匿名にしたり、責任の所在をはっきりさせるなど、第三者の目線を入れた透明性のある体制を整えましょう。
マニュアルやルールを定め、浸透させる
まずは、コンプライアンス違反につながりそうなリスクを洗い出し、対策するべき課題を把握します。そして、対策を社内マニュアルに記載し、すべての社員に浸透させましょう。全社メールやポスターなどで周知を徹底することにより、未然に違反を防ぐことができます。
社員アンケートや定期的な人事面談を通じて社員のメンタルケア
社員アンケートの実施も、コンプライアンス違反を防ぐために有効な手段です。
特に、次のような項目を調査するといいでしょう。
- 上司に知らせず時間外労働をしていないか
- 社外秘データを持ち出していないか
- 業務への不満や精神的疲れはないか
- 自社のコンプライアンスに関するルールで不明点はないか など
また、定期的な人事面談により、社員一人ひとりの精神面のケアを行っていくことも大切です。
デジタル空間におけるコンプライアンス違反
昨今は、SNSなどデジタル空間におけるコンプライアンス違反も見られています。また、違反となるような言動がSNSにアップされ、拡散されることもあります。
すでに、コンプライアンスに関する研修を行っている企業も多いでしょう。しかし、重要なのは、最新のコンプライアンス違反事例などを取り入れた研修を実施することです。
企業や社員を守るためにも、時代に即したルールにアップデートできているかを都度確認することが必要になります。
▶【お役立ち資料】SNSで起きるコンプライアンス違反の対策はこちら
まとめ
コンプライアンス違反のリスクは、想像以上に身近に存在しています。
企業のブランド毀損や経営破綻につながりかねないため、「知らなかった」では済まされません。気づかないうちにコンプライアンス違反を起こさないよう、担当者は細心の注意を払う必要があります。
社員一人ひとりのコンプライアンスに対する意識を高めるための取り組みを行い、コンプライアンス違反のリスクを減らしていきましょう。
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